謎の牛乳船
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ミルク業界最大のタブー!?
謎の牛乳船を追跡せよ!
これが牛乳船だ!
町のスーパーに行くと、さまざまな牛乳が売られています。「北海道なんちゃら」とか「高原なんちゃら」とか。明治や雪印や森永や、各メーカーが趣向を凝らしたパッケージでこれでもかと売ってるわけです。
がしかし、その中身は全部同じだと知ってるでしょうか?
実は普通のパックの牛乳には、だいたい1万頭の牛の乳が混入されていると言われます。要は北海道の牛乳をまとめて本州に運び、そこから各工場に運ばれるので、中身は一緒ということなんですな。
この話を最初に聞いたとき、ものすごい衝撃がありました。まさか、メーカーごとに違いがないなんて……正直、理解するのに時間がかかりました。だって、普通はメーカーごとに直営牧場みたいなもんがあるように思うじゃないですか。あるいは契約農家と年間契約でもしてそうでしょ? 違うんだなぁ。
というわけで、今回は牛乳の流通ルートについて調べてみたよ。
言うまでもなく、牛乳の主産地は北海道。新鮮第一の牛乳は毎日毎日搾られます。
で、考えてみれば牛は生きてるわけで、そのままだと搾られた乳は牛の体温に近い高温のまま。当然、すぐに細菌が増殖して腐ってしまいます。
左が手搾り、右が機械搾り
全自動搾乳ロボットの様子(1台で1日50〜60頭の搾乳が可能)
品質保持のため、生乳をバルククーラーと呼ばれる巨大冷蔵庫で4℃まで冷やします。
それをミルクローリーという集乳車が集め、クーラーステーションに運び、1℃程度まで冷やしておくんですよ。
そしてトレーラーで釧路港まで輸送して、そこから茨城県の日立港まで20時間かけて運ぶんです。
この牛乳輸送船はホクレン所有の「ほくれん丸」「第2ほくれん丸」の2隻で、毎日、休むことなくピストン輸送しているんです。
ではさっそく、この牛乳船を見に日立まで行ってみよう!
某年某月、すっごい寒いある冬の日。東海原発のすぐそばの日立港に車で到着。
すると、白いタンクを乗せたトラックが次々に入港していく。きっとあれが牛乳タンクローリーに違いない。空のタンクでやってきて、牛乳船にタンクを渡すのかな?
気になったのは、どのタンクにも企業名が書いてないこと。やっぱり隠したいのかなぁ??
巨大な牛乳タンクローリー
埠頭はすぐに立入禁止に。そこで警備のおっさんに聞いてみた。
「すいません、ほくれん丸の写真撮りたいんですけど」
「いや〜ちょっと無理だね。でも金網の外からならいいよ」
ということで、釣り人用の防波堤をトボトボと歩く。風が鬼のように吹いて寒すぎる。というか、吹っ飛ばされそうだよ。こんなところで海に落ちたら、間違いなく死ぬよねぇ……なんて思いながら、けっこう長い防波堤を進む。
すると!
沖のはるか彼方から白い船がやってきた!
「おぉ、あれが牛乳船だ!」
ほくれん丸
ほくれん丸はものすごく巨大。船首の名前を見ると「第2ほくれん丸」とある。
ちなみにこの牛乳船、オイルタンカーのように内部ががらんどうになっているわけではありませぬ。タンクローリーの後ろの部分だけが船に積まれ、日立港でトラックの頭の部分だけが迎えにくるシステム。こうした船をRORO船と言います。
牛乳船に吸い込まれていくタンクローリー
さて、せっかくなので、この中の1台の運転手さんを捕まえてどこまで行くのか聞いてみたところ、愛知県の犬山と判明。
要は名古屋圏の消費者に届けられるわけですな。
ちなみに運ちゃんによると、日立から搬送されるのは関東、中京までで、関西以西は舞鶴などから搬送されるそうです。
これで日本の牛乳はほぼ中身が一緒だとわかったわけですが、では各社、どのように差別化してるのか? 値段とか味とかけっこう違うもんね。
でも実はこれって、管理や殺菌方法、パッケージ、加工による付加価値程度でしかないようです。なんかちょっとがっかりですな。
牛乳メーカーは民間企業なんだから、こんな談合みたいなシステムはおかしいと思う人もいるかもしれません。
けれど、実はこのシステム、日本政府が主導して始まったことだったんです。
戦前の牛乳配達(福島県、日本畜産の岩瀬御料地牧場)
1965年ごろ、大阪あたりでは牛乳の消費が急激に伸びる一方、供給量の少なさが問題になっていました。やむなく生乳ではなく、還元牛乳や加工牛乳で代用することが公言されていました。
しかし、できればすべての国民に新鮮な牛乳を供給したい……こうした思いから、牛乳輸送の国家管理という発想が誕生しました。
これは、たとえばイギリスでは400km以上の牛乳の遠距離輸送は、国が牛乳列車で輸送しているという実例がありました。そこで、日本でも牛乳列車か牛乳船を作ろうという話になったのです。
もし、生産者やメーカーが個別に輸送すれば、当然、コストは高くなる。そこで、
「輸送経費というものを国民に負担させないで、国の政策の中で輸送施設というものを設けて、そうして大消費地に主産地から送乳を行なうということ以外に方法はないわけです」
との発言が国会で出てきます。
(北海道出身の芳賀貢・衆院議員の発言。昭和40年2月24日、第48回予算委員会の議事録より)
これに対し、赤城宗徳・農林大臣は
「牛乳の国家管理でもするということであれば、一挙にそういうふうになりますけれども、いま国家管理というようなことをいたしておりません」
と答えるものの、円滑な輸送に対する必要性は認めています。
こうして政府主導で牛乳船が建造され、1993年7月に「ほくれん丸」が就航するのです。
僕らの生活は、予想以上に国会議員の決定に影響されてることがわかるのでした。
制作:2010年5月16日
<おまけ>
現在日本ではオーストラリアとFTA(自由貿易協定)を協議してますが、もし成立した場合、オーストラリア産の安い牛乳が大量に日本に入ってくるので、北海道の牛乳産業は壊滅するかもしれませんね。
いちおう、オーストラリア側の反論は以下のとおり。
《多くの食品分野(生乳、高品質果物・野菜、高級和牛など)において、日本の農家が他国との競争に敗れて市場を失う可能性はありません。日本の牛乳生産のうち約6割は飲用乳であり、オーストラリアから生乳を日本に出荷するということは、経済的ではありません》
ホントかな?