「大和撫子」のルーツ発見?
「女大学」全文公開!
「大和撫子」っていう何だか不思議なイメージは、いったいどうしてできたんでしょう? 外国に行くと、最近でこそ「俺は日本人の女と知り合いたい。だって、日本の女はすぐやらせてくれる」なんて言う奴も多くなってきましたが、けっこういまだに「俺は日本人の女と結婚したい。だって日本の女は夫に尽くすと言うからなぁ」なんて言う奴もいるんだよね。世界に広がった「大和撫子」。うむ。
で、実は江戸時代に大流行した「女大学」って本がありまして、個人的にはこのベストセラー&ロングセラーが「大和撫子」のイメージを作ったんじゃないかと思ってます。作者は貝原益軒とされてますが、根拠はありません。本文は19条からなっていて、誰にでも分かる簡単な文章。とにかく「女は男の付属物」という封建的な文章で、今から読むとフェミニストさえ苦笑するような代物。ほとんどギャグ文学なのだ。 ということで、全文を公開。現在確認されている最古の版は享保元年(1716)版ですが、今回は俺の持ってる昭和16年(1941)版を底本としました。原文通りだと多少読みにくいので、少し現代語訳をしています。でもあえて教訓ぽい文章は残したので、たぶん文法的におかしい物になってしまったと思いますが、その点はご勘弁。
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女子は成長して他人の家へ行き舅姑に仕える者なれば、男子よりも親の教えをゆるがせに(=安易に)すべからず。父母が寵愛して自由に育てれば、夫の家に行って必ず気随(=きまま)に振る舞い夫に疎まれ、また正しい舅の教えを耐え難く思い、舅を恨み誹って仲が悪くなり、ついには追い出され恥をさらす。女子の父母は、自分の教えなきことを言わずして、舅夫が悪いとのみ思うは誤りなり。これみな女子の親の教えなきゆえなり。
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女は形(=容姿)よりも心の勝れるを善とすべし。心映えの悪い女は心騒がしく、眼を恐ろしく見出して人を怒り、言葉が荒く物の言い方が悪く、口聞きて人に先立ち人を恨みねたみ、我が身を誇り人をそしり笑い、自分が人に勝ったという顔でいるのは、みな女の道に違えるなり。女はただ和らぎ従いて、貞信(=まこと)に情け深く静かなるをよしとす。
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女子は幼き時より、男女の区別を正しくして、かりそめにも戯れたることを見聞きすべからず。昔の儀礼に、男女は席を同じくせず、衣装をも同じところに置かず、同じところで湯浴みせず、物を受け取り渡すことも手より手へ直にせず、夜は必ず燭(=明かり)を取って行くべし。他人は言うに及ばず、夫婦兄弟でも区別を正しくすべしとなり。
今時の民家はこのような儀礼を知らずして、行動がみだらにして名を汚し、親兄弟に辱めを与え、一生、身をいたずらに(=空しく)する者あり、口惜しきことにあらずや。女は父母の命令と仲介がなければ、交わらず親しまずと「小学」にも見えたり。たとえ命を失っても、心を金石のごとく堅くして義を守るべし。
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婦人は夫の家を我が家とする故に、唐土(=中国)にては「嫁を帰る」という。「我が家に帰る」という事なり。たとえ夫の家が貧賎なりとも夫を恨むべからず。天より自分に与えられた家の貧しさは、自分の幸せの悪しきなりと思い、ひとたび嫁に入ってはその家を出ざるを女の道とすること、昔の聖人の教えなり。もし、女の道に背き、去るときは一生の恥なり。されば婦人に「七去」といって悪きこと7つあり。
一には舅姑に従わざる女は去るべし。
二には子なき女は去るべし。これ妻をめとるは子孫相続のためなればなり。されども婦人の心正しく、行儀よくして妬む心なければ、去らずとも同姓の子を養うべし。
三には淫乱なれば去る。
四には悋気(=嫉妬)深ければ去る。
五には癩病(らいびょう)などの悪き病気あれば去る。
六には口まめにて慎みなく、物言いすぎるは親類とも仲悪くなり、家が乱れるものなれば去るべし。
七には物を盗む心あるは去る。
この「七去」はみな聖人の教えなり。女は一度嫁に入ってその家を出されては、たとえ再び富貴なる夫に嫁に入るとも、女の道に違いて大いなる恥なり。
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女子は家にあっては、自分の父母にもっぱら孝を行う道理なり。されども、夫の家に行ってはもっぱら舅姑を自分の親よりも重んじて、厚く慈しみ敬い孝行を尽くすべし。親の方を重んじ、姑の方を軽んずることなかれ。舅姑の方の朝夕の見舞いを欠くべからず。舅姑の方の勤むべき業を怠るべからず。
もし舅姑の仰せあれば、慎み行いて背くべからず。すべてのことを舅姑に問うてその教えにまかすべし。舅姑がもし自分を憎み誹っても、怒り恨むことなかれ。孝を尽くして誠意を持って仕えれば、後は必ず仲良くなるものなり。
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婦人は別に主君なし、夫を主人と思い敬い慎みて仕えるべし。軽んじ侮るべからず。総じて婦人の道は人に従うにあり、夫に対するに顔色言葉使い慇懃にへりくだり、和順(=素直に従う)なるべし。おごりて無礼なるべからず、これ女子第一の務めなり。夫の教訓あればその仰せに背くべからず。疑わしきことは夫に問うてその下知(=指揮)に従うべし。夫が問うことあれば正しく答えるべし。その返答がおろそかなるは無礼なり。夫がもし腹を立て怒るときは恐れて従うべし。怒り争いてその心に逆らうべからず。女は夫をもって天とす、返す返すも夫に逆らって天の罰を受けるべからず。
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夫の兄、姉は兄弟なれば、敬うべし。夫の親類に誹られ憎まれるは、舅姑の心に背きて自分のためにもよろしからず、むつまじくすれば舅姑の心にもかなう。また、兄嫁と親しみむつまじくすべし。ことさら夫の兄嫁は厚く敬うべし、自分の兄姉と同じくすべし。
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嫉妬の心、ゆめゆめ起こすべからず。男が淫乱なれば、いさめるべし。怒り恨むべからず。妬み甚だしければ、その気色言葉も恐ろしくすさまじくして、かえって夫に疎まれ見限られるものなり。もし夫に不義、過ちがあれば、自分の顔色を和らげ、声を柔らかにして諫めるべし。諫めを聞かずして怒れば、まずしばらくやめて後に、夫の心和らぎたるときに、また、諫めるべし。必ず気色を荒くし、声を荒らげて夫に逆らい背く事なかれ。
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言葉を慎みて、多くすべからず。仮にも人を誹り、偽りを言うべからず。人の誹りを聞くことあれば、心に納めて人に伝え語るべからず。誹りを言い伝えることで、親類とも仲悪くなり、家の中が納まらず。
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女は常に心遣いしてその身を固く慎み守るべし。朝は早く起き、夜は遅く寝て、昼は寝ずに家の中のことに心を配り、織り縫い績紡(=裁縫)を怠るべからず。また、茶酒など多く飲むべからず。歌舞伎、小唄、浄瑠璃などの乱れたることを見聞くべからず。宮寺などすべて人の多く集まるところへ40歳まではあまり行くべからず。
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巫女などの言いぐさに迷って、神仏を汚し近づきみだりに祈るべからず。ただ人間の勤めをよくするときは祈らなくても神仏は守り給うべし。
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人の妻となっては、その家をよく保つべし。妻の行い悪く放埒なれば家を破る。万事、慎ましやかにして無駄使いをなすべからず。衣服飲食なども、身の分限に従い用いて、奢ることなかれ。
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若いときは、夫の親類・友達・下男などの若い男にうち解けて物語り、近づくべからず、男女の隔てを堅くすべし。いかなる用があっても、若い男に手紙など出すべからず。
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身の飾りも、衣装の染め色模様なども、目立たぬようにすべし。身と衣服が汚れていず清潔なるはよし。清きを尽くしすぎ、人の目に立つほどなるは悪し。ただ自分の身に応じたるを用いるべし。
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自分の親の方を優先し、夫の方の親類を次にすべからず。正月節句などにもまず夫の方に勤めて、次に自分の親の方に勤めるべし。夫が許さないときは、どこへも行くべからず。個人的に人に贈り物すべからず。
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女は自分の親の家を継がず、舅姑の跡を継ぐ故に、自分の親よりも舅姑を大切に思い、孝行をなすべし。嫁に入って後は自分の親の家に行くのも稀なるべし。まして他の家へは、おおかたは使いを遣わして安否を尋ねるべし。また自分の故郷のよいことを自慢して褒め語るべからず。
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下僕を多く使っていても、すべてのことを自分で辛労を堪えて勤めることが女の作法なり。舅姑のために着物を縫い食事をととのえ、夫に仕えて衣服を畳み敷物を掃き、子を育て汚れを洗い、常に家の中に居てみだりに外へ出るべからず。
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下女を使うにも心を用いるべし。言う甲斐のない下郎は立ち居振る舞いが悪くて知恵がなく、心がねじけていて言う事もはしたない。夫のことや舅姑小姑のことなど、自分の心に合わぬ事あればみだりに誹り聞かせて、それを却って主人のためと思っている。婦人がもし知恵がなくてこれを信じれば、必ず、恨みができやすい。もとより夫の家はみな他人だから、恨み背きて恩愛を捨てることも簡単である。用心して、下女の言葉を信じて大切な舅姑小姑の親しみを薄くすべからず。
もし下女がひどくやかまくて悪い人間ならば、早く追い出すべし。このような者は、必ず親類の仲を言い妨げ、家を乱す元となる者なり、恐るべし。
また、卑しき者を使うには気に合わないことが多い。それを怒り罵ってもやまなければ、せわせわしく腹が立つこと多く、家の中が静かにならない。欠点があれば折々言い教えて誤りを直すべし。少しの過ちは我慢して怒るべからず。心の中では哀れんでも、外には行動を堅く戒めて怠らぬように使うべし。与え恵むべき事があれば、お金を惜しむべからず。ただし、自分が気に入ったからといって役にも立たない者にみだりに与えるべからず。
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およそ婦人の心ざまの悪い病は、和らぎ従わざること、怒り恨むこと、人を誹ること、物妬むこと、知恵浅きことなり。この5つの病は10人に7、8人は必ずある。
この点が婦人の男に及ばないところなり。自ら顧み戒めて改め去るべし。特に知恵が浅いために5つの病も起こる。
女は陰性である。陰は夜で暗い。だから女は男に比べて愚かで、目の前のしかるべき事も知らず、また人の誹るべきこともわきまえず、わが夫わが子の災いとなるべき事も知らず、罪もない人を恨み怒り呪詛し、あるいは妬んで、自分が一人立派と思っても人に憎まれ疎まれてみな我が身の仇となることを知らず、たいそう、はかなく浅ましい。
子を育てても愛におぼれて行儀悪く、このように愚かだから何事も我が身をへりくだって夫に従うべし。昔の法律に「女子を産めば3日床の下に寝させる」という。これも男は天で女は地を象徴するから、すべてのことについて夫を先立て自分を後にし、よいことをしても誇る心なく、また悪い点があって人に責められても争わず、早く過ちを改め、何度も人に言われないように身を慎み、また人に侮られても腹立ち憤ることなくよく堪えて物を恐れ慎むべし。このように心得れば、夫婦の仲おのずから和らぎ、行く末長く連れ添って家の中が穏やかなるべし。
右の条文は幼いときからよく教えるべし。また書き付けて折々読ませ忘れることなからしめよ。いまの世の人は、女に衣服道具など多く与えて婚姻させるよりも、この条文を十分に教えることが一生身を保つ宝なるべし。昔の言葉に「人は100万銭を出して娘を嫁がせることは知っていても、10万銭を出して子を教育することは知らない」という。誠なるかな。女子の親たる人、この真理を知らなければならない。
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