米軍の航空母艦に乗ってみた
史上最強の「空母打撃群」とは?

空母「ロナルド・レーガン」飛行甲板
空母「ロナルド・レーガン」の飛行甲板


 2014年8月8日、米軍の戦闘機がイラク北部の過激派組織「イラク・シリア・イスラム国」に対し、空爆を行いました。本格的な軍事介入ではないので、FA-18戦闘機2機がレーザー誘導弾を投下した程度です。
 この戦闘機はいったいどこからやってきたのか。答えは、ペルシャ湾で待機している空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」です。

 現在、アメリカ海軍は、空母の戦闘部隊を「空母打撃群」(Carrier Strike Group=CSG)として編成しています。簡単に言うと、

 大型原子力空母 ×1
 ミサイル巡洋艦 ×1
 ミサイル駆逐艦 ×2
 原子力潜水艦 ×1
 補給艦 ×1


 の6隻体制でまとまって動くのです。これをどう運用するかというと、通常の軍事介入では、

 ①巡洋艦、駆逐艦、潜水艦からトマホーク(巡航ミサイル)で敵の基地やレーダーサイトを攻撃
 ②E-2Cホークアイ(早期警戒機)が警戒するなか、EA-18G(電子攻撃機)などが妨害電波を発信
 ③FA-18戦闘機が目標に対して攻撃


 となります。オバマ政権が2011年、リビア内戦に軍事介入したときは、地中海から、空母「エンタープライズ」を中心とした艦船が巡航ミサイルを撃ち込んで終了しました。

空母「ロナルド・レーガン」
艦載機は90機。手前の白い機体がEー2Cホークアイ早期警戒機


 このように、現在のアメリカの戦い方は、空母が基本となっています。ひとつの空母打撃群は中小国の軍事力をはるかに上回るため、敵対する国から見たら、いきなり強力な軍事大国が近くに出現するという、恐ろしい事態になります。

 では、日本近海にはどんな空母があるのか。
 現在、横須賀には「ジョージ・ワシントン」がいますが、核燃料を交換するためアメリカに戻らねばならず、2015年中に「ロナルド・レーガン」がやってきます。

「ロナルド・レーガン」は第9空母打撃群で、東日本大震災では「トモダチ作戦」の中心となりました。横須賀に来た後は、尖閣などで有事が起きれば、集団的自衛権の下、自衛隊と一緒に戦うことになります。
 いったい、「ロナルド・レーガン」はどのような空母なのか。さっそく体験搭乗することにしたよ。

C-2グレイハウンド
C-2グレイハウンド輸送機で着艦!
(着艦時の衝突を全身で受け止めるため、シートは進行方向と逆)


 ハワイ沖では、だいたい2年に1度、リムパック(環太平洋合同演習)と呼ばれる海軍の多国籍演習が行われています。演習の様子は多くのメディアに公開されるため、管理人もなんとか潜り込むことに成功したのです。
 もちろん、「ロナルド・レーガン」は海上にいるため、ハワイの空軍基地から輸送機で乗り付けることになります。

 この輸送機Cー2グレイハウンドは軍用なので、また騒音がひどいんですよ。もちろん、シートは狭くて、乗り心地も最悪。窓も2つしかないので、外の様子はまったくわかりません。

 そして約1時間後、高度が下がったと思ったら、全身ががくんと引っ張られました。
「ロナルド・レーガン」の全長は333m。滑走路は当然もっと短く250mくらいなので、空母では着艦した飛行機を止めるとき、アレスティング・ワイヤと呼ばれる鋼索にフックを引っかけて一気に止めるんです。それで、体が急にがくんときたわけです。
 この鋼索は4本あって、前から3番目に引っかけるのが理想。一番前のワイヤに引っかからないと、着艦のやり直しとなるので、パイロットも必死です。

アレスティング・ワイヤ
アレスティング・ワイヤを機体後尾のフックに引っかける


 空母には、数え方にもよりますが、滑走路が3本あります。艦首に向かって真っ直ぐ伸びるのが2本と、斜めが1本。2本の平行滑走路が発艦用で、ここから交互に発艦します。
 そして、斜め滑走路がおもに着艦用。斜めにしたのは滑走路の距離をより長くするのと、離発着の混乱を防ぐためで、イギリスが開発した方式です(もちろん、斜め滑走路からも発艦可能)。

 では、戦闘機の発艦はどうやって行われるのか。発艦には時速200km程度は必要なので、短い滑走路で一気に加速しなければなりません。
 まず前提として、空母は常に向かい風で航行します。向かい風なら、発艦時に相対的なスピードが速くなるからです。そして、重要なのが、カタパルトと呼ばれる射出機。高圧水蒸気を使って、最大で30トンにもなる重い戦闘機をビューンと急加速させるのです。

カタパルト
空母にはカタパルトが全部で4本ある


 このカタパルトを独自開発できたのは英米、ロシア、そして戦前のドイツと日本くらいです。
 中国は空母「遼寧」を持っていますが、カタパルト技術がなく、甲板前方がスキージャンプ台のように上向いています。アレスティング・ワイヤも自力で開発できないため、まだまだレベルが低い空母と見なされています。

 甲板ではホコリと騒音がひどく、防音ヘルメットが必須となります。想像以上の爆音と熱風でビックリ仰天。
 ちなみに甲板員は作業内容に応じて、ジャージとヘルメットの色でたとえば以下のように区別されています。

(ジャージ・ヘルメット)
 青・青…航空機牽引係
 青・白…エレベーター操作、伝令
 黄・黄…航空機の誘導
 白・緑…航空隊検査、液体酸素担当
 緑・緑…射出・着艦装置担当
 赤・赤…兵器担当 
 

 エレベーターというのは空母の脇にあって、飛行甲板の下にある広大なハンガー(格納庫)から戦闘機やヘリをデッキまで上げ下げするものです。このエレベーターはわずか数十秒で昇降できる優れものだそうですよ。

空母の格納庫
格納庫では戦闘機は羽を折って待機(吊されてるのは燃料入れ)


 驚くことに、艦橋にも入室させてくれました。
 艦橋は4階建てになっており、下から甲板管制、戦闘艦橋、航海艦橋、航空管制の順です。

空母の艦橋 航海艦橋
空母の艦橋(左)と航海艦橋(右)

空母のタービン
原子炉1基で4基のタービンを動かす。ここで作った電気で、海水から真水を製造


 さて、「ロナルド・レーガン」には、約5000人の乗組員がいます(約3分の1が女性)。原則として朝6時起床、10時就寝ですが、空母の場合、夜間訓練もあるため、就寝時間は人によってバラバラです。艦内には図書室、映画室などがあり、自由時間は本や映画を見ながらのんびり過ごせます。

 すごいのが、カトリックはもちろん、モルモン教、仏教、さらにイスラム教まで、さまざまな宗教施設が設置されている点。イスラム教は12時から、仏教は12時半からなどと、ちゃんとお祈りの時間も決まってるんですね。

 で、乗り組員にとって最も重要なのが、やっぱり食事。
 食堂は艦内のいたるところにあって、野菜も果物も豊富。バイキング形式で好きなものを頼めます(もちろん無料。ただし、酒はなし)。
 お土産物屋とかスターバックスなどの贅沢品は、艦内だけで使える電子マネー「ネイビーキャッシュ」でのみ買うことが可能です。盗難防止のため、艦内ではいっさい現金が使えないのです。

空母内のスターバックス
スターバックス

 
 夜10時になると、消灯のため、艦内の廊下は赤いランプで照らされます。
 ゲストルームは二段ベッドで、壁一面がクローゼットになっています。洗面台からは白濁した水が流れ出し、ちょっと驚いたものの、テレビもソファもあって快適です。

空母のゲストルーム
空母のゲストルーム。ガウンなどアメニティも豊富


 普段は船の揺れはほとんど感じないものの、横になるとさすがに揺れに気づきます。そして、うとうとすると、いきなり地震のように揺れたり、着艦訓練のゴーという音が響いたりで、一瞬にして目が覚めてしまいます。

 ちなみにトイレ、シャワーは共同。暗がりの中でトイレに行くのはけっこうびびります。艦内は巨大な迷路のようになっていて、迷ったら絶対に元の場所に戻れないとわかっているので、用を足すのにもちょっとした恐怖感がつきまといます。
 怖ぇーと思いながら、つい、朝まで尿意を我慢してしまうのでした。

空母のトイレ
空母のトイレ。シャワーは勢いよく水が出たよ

制作:2014年8月12日


<おまけ>
 現在、米軍は11隻の空母を持っています。いずれも原子力空母で、1隻の建造費は約5000億円、年間維持費は400億円と言われます。これに艦載機や訓練費を合わせると、さらに金額は跳ね上がります。
 1つの空母打撃群を構築するためには、年間数千億円の維持費がかかるため、現状、アメリカ以外はまともに空母を運用できていないのです。
 
 ちなみに、米軍の空母を沈没させたのは旧日本軍のみ。
 日本には現在、ヘリ空母(護衛艦)「ひゅうが」「いせ」があります。「ひゅうが」は全長197mで、ヘリ3機の同時着艦が可能(防衛省資料によれば、建造費は1057億円)。
 横浜のジャパン・マリンユナイテッドの造船所では、全長248㍍で、ヘリ9機を同時運用できる「いずも」が建造中です。就役は2015年春の見込みです。
海自ひゅうが
海自護衛艦「ひゅうが」(横須賀)



※せっかくなので、動画も公開しておきます!
着艦
発艦
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