中国・最新メディア事情
巨大国営企業を見に行ってみる
中国中央電視台の新社屋
2009年2月、中国の中央テレビ局(CCTV=中央電視台)の建築中の新社屋ビルで大火災が起きました。このビルは社屋に隣接した地上30階建て、高さ159メートルの高層ビル「北配楼」で、高級ホテル「マンダリン・オリエンタル」が入居する予定でした 。
火事の原因は、元宵節(旧暦1月15日)を祝うため、北京五輪で使われた式典用の大型花火700発を違法に打ち上げたことで、当局の制止を無視してCCTV自身が打ち上げ続けたんだそうですよ。
国営放送の事故だけに、庶民から同情が集まるかと思いきや、世論は「ざまあみろ」という感じだそうで。それはこれまでの報道姿勢に大きな不満がたまっていたからです。
左がCCTVの旧社屋。矢印は
北京タワー。
右が新社屋と完全に燃え尽くした北配楼。新社屋は上から見ると「TV」の形をしてるんだとか
CCTVは花火の様子を4台のカメラで録画していたものの、火事のニュースは鎮火するまでほとんど報道しませんでした。自分の不利益は報じない、官僚の腐敗や政治批判は報じない、地方の困窮は報じない……そんなわけで、偏向報道のCCTVに対して強い批判があったわけです。
インターネットがなければ、そんな批判は表に出てこなかったでしょうが、時代は変わったと言うことですな。
このインターネットもかつては「天安門事件」とか「法輪功」なんかは検索できませんでしたが、今回(2009年2月)はけっこう大丈夫でした。
北京テレビ
北京にはCCTVと北京テレビ(北京電視台)の2つのテレビ局がありますが、すでに政府の援助はなく、完全に民営化されています。よって人気番組を放送するしかなく、2008年10月よりアニメ『ポケットモンスター』が放送されています。もともと中国で放映される海外アニメのほとんどが日本製だったんですが、2006年以降、ゴールデンタイムでの海外アニメの放送には厳しい制限がかけられています。しかしまぁ、不人気を受けて背に腹は代えられない、ということかもしれませんな。
ところでCCTVの火事を報じたのはほとんど新華社通信だけでした。
言うまでもなく、こちらも国営企業。たとえばチベット問題で政府が国際的な批判を浴びると「人権団体と西側メディアは人の不幸を喜び、騒乱を楽しんでいる」などと非難をすることで有名です。
通信社は庶民にはあまり関係ないとはいえ、やっぱりもう誰からも信頼されていないんでしょうねぇ。
すっげー巨大な新華社。手前には高層ビルがあるんですが、写真に入りきりません。
奥のビルはスタッフの居住棟です
中国のマスコミと言えば、誰でも知ってるのが共産党機関紙である『人民日報』ですな。こちらもチベット問題では「ダライ・ラマの『ダライ集団』が陰謀、扇動した」などと政府の見解を垂れ流すばかり。政府要人の礼賛ばかり続けるものだから、知識人は「『人民日報』で信用できるのは日付だけだ」なんて怒っていたりします。
こちらも巨大な人民日報。しかし広大すぎて奥はよく見えません
ところが面白いもので、人民日報内部にもちゃんと権力争いがあるんですね。たまに奇跡のような政権批判が行われることがあるのですよ。
有名なのが1990年の春、「人民日報」海外版に掲載された次の詩です。
東風拂面催桃李、
鷂鷹舒翅展鵬程。
玉盤照海下熱涙、
遊子登臺思故國。
休負平生報國志、
人民有我勝萬金。
憤起直追振華夏、
且待神洲遍地春。
これはアメリカ留学中の朱海洪という若者が春節(旧正月)を迎えるにあたって詠んだ七言律詩。
題は「元宵」といい、春を待つ留学生の祖国を思う気持ちが詠われているんですが、実はとんでもないワナが隠されていました。右上の「李」という漢字から斜めに漢字を拾っていくと「李鵬下臺平民憤」となって、これは「李鵬(首相)が辞めれば民の怒りが収まる」という意味。当時の『人民日報』にこの漢詩が掲載されたのは、間違いなく政治的な理由でしょう。恐るべし中国社会。
ちなみに中国には人民日報以外にも多くの新聞がありますが、いずれも庶民からは信頼されていないようで、こんなジョークがあるそうですよ。
『北京日報』は人民を騙し、『解放軍報』は軍人を騙す。
『人民日報』は人民を騙し、『光明日報』は光明に非ず。
かつて700万部という大部数を誇った人民日報ですが、現在、公式サイトでは300万部と書かれています。しかし、現実には100万部ほどらしく、新聞の崩壊は世界共通だとわかりますな。
北京日報
ではラジオはどうか? ここ最近、まったく相手にされなかったラジオですが、近年、復活の兆しを見せてるんだそうです。理由は簡単で、豊かになって車を買い始める人が増えたから。中国唯一の国際ラジオ局は中国国際広播電台(中国国際放送局)で、ここは日本語放送なんかも行っています。
中国国際広播電台
このラジオ局、北京オリンピックのときには、中国移動通信と提携して携帯テレビ放送に乗り出しました。中国ではようやく3G規格が普及し始め、携帯で動画が楽しめるようになったのです。
中国移動通信本社と「3G生活へ」という大看板
では、最後に中国の出版事情はどんなもんなのか?
左が北京最大の書店「北京図書大廈」で、右が「王府井書店」
統計で言えば、2010年まで中国の出版は拡大の一途をたどると推測されています。2005年に64億冊だった本の出版点数が2010年には70億冊になるそうですよ。もちろんオンライン読書率はそれを超える上昇率ですが。
余談ながらもはや中国に海賊版のコミックはほとんどありません。どうしてかというと、最新作がすべてインターネットでタダで読めるから。中国政府は日本のマンガに厳しい制限をかけてきましたが、もし今解禁されたとしても、すでにマンガを紙で読むという文化は存在しません。
さらに余談ついでに言うと、パソコンのソフトはVistaもOfficeもCS3も全部300円で買えます。著作権なんて認めないという明確な意志には感服しますな。
とはいえ、それは一面的であり、北京の本屋に行けばきちんと契約して翻訳されてる本がたくさん出ています。けっこう日本の作品は人気で、2008年の大ベストセラーは山岡荘八の徳川家康だって(本当です)。
俺も書店に見に行ってみたら、あったのは「蟹工船」。これってなんか世界的に人気らしいですよ。
これが蟹工船だ
せっかくなので、北京の書店流通の現場にも行ってみました。ここは北京の本のほとんどを扱ってる書籍市場(民間)ですが、店によっては月に数千万の売り上げがあるそうです。豊かになっていく中国の、爆発する知への欲求には驚くばかりなのでした。
北京図書批発交易市場。右写真にはアトムが
こちらは北京の秋葉原「中関村」近くの古書街。まったくつまらない場所でした
制作:2009年3月8日
<おまけ>
2008年末の統計データによると、中国には電子書籍が約50万種類、オンライン定期刊行物が9000種類、デジタル新聞が600紙あるそうです。
電通の資料によれば、やはり中国でもIT関連の広告費が急成長してるんだとか。2009年には全メディアの広告費の
8.5%になると予測されています。もちろん圧倒的に強いのはテレビで60%、ラジオは3.5%。新聞が相手にされなくなっているのは日本と同じで、2001年の19.4%が2009年末には9.6%に下落するとされています。
ちなみにこちらは中国のどの田舎町にもあるインターネットカフェです。