ストリートギャングを刑務所からコントロールする男たち
「アメリカはギャングが多いから、やたらなところを歩くと危険だ」という話を、誰でも一度くらいは耳にしたことがあるだろう。確かに、アメリカの治安は、いわゆる「ギャング」たちのせいで日本とは比べものにならないくらい悪い。実際に、大学キャンパスに隣接する大通りで、ギャングによる殺人事件なども起こっている。
だが、信じられないことだが、こうした街中で我が物顔に振る舞うギャング(ストリートギャング)たちは、実は、刑務所内にいる少数の「プリズンギャング」から、完全にコントロールされている。刑務所からの指令に従わない者は殺害されてしまうのだ。
これは、外の世界でも刑務所の中でもヤクザが幅を利かせている日本では、非常にわかりづらい現象である。いったいどういうことなのか。
ストリートギャングたちは、誰もがいつかは自分も刑務所に行くだろうと思いながら、犯罪をおこなっている。
犯罪を犯して刑務所に入ると、通常、外の仲間たちから切り離された状態で収監されるため、なかではたった一人となり、非常に弱い状態に置かれてしまう。
そこで、自分や自分たちの仲間が収監されたときの保険として、外にいるときは、プリズンギャングたちに一定のミカジメ料を納めるという暗黙のシステムが成り立っているのである。
わかりやすくいえば、ストリートギャングはプリズンギャングに「ケツ持ち」してもらう形で、初めてシャバで犯罪活動をおこなえるのだ。
アメリカでは「懲役300年」といった判決が実際にいくつも出ており、一生刑務所内で過ごす受刑者も多い。当然のことながら、中の世界と外の世界との隔絶感は日本に比べるとはるかに強い。こうして、刑務所内だけを縄張りとするまったく別の勢力ができあがり、そのなかの選ばれし者が、外のギャングたちを指揮することになる。
完全なヒエラルキーを維持するため、プリズンギャングは、刑務所内できわめて凶暴に振る舞う。
相手を殺害する場合も、被害者の傷の縫合が不可能になるよう、手製のナイフ(シャンク)で何十回も連続で刺すようなケースが多い。過去には、被害者の首がほとんど胴体から離れてしまうような残虐な殺害も報告されている。
刑務所外の統制の仕組み
年齢の面でも、ストリートギャングは8、9歳から始まり、10代、20代といった若い世代が中心であるのに対し、プリズンギャングは40代、50代もザラである。
ギャングの統制の仕組みをもう少し見てみよう。
たとえば、街の一角をあるギャングが押さえていたとする。そのなかでは、10代前半の見習い的なメンバーが一番下っ端で、その上にYG(ヤング・ギャングスタ)などと呼ばれる若い中間的メンバーがおり、その上にOG(オリジナル・ギャングスタ)などと呼ばれる先輩格のメンバーが存在する。
縄張り内の最終的な決定権を持つのが、ショット・コーラーと呼ばれる地域の総責任者である。ショット・コーラーは、プリズンギャングの妻などとコンタクトを取りながら、シマでの活動の方向性に対して指示を仰ぎ、実際にそれを実施し、上がりの一部を納める。
ちなみに、ショット・コーラー(Shot Caller)というのは、「誰かを始末(ショット)するときの判断を下す(コールする)者」という意味で、外にいる者たちは、みなその地位を目指して犯罪活動に励むことになる。
こうした統制の仕方は、メキシコ系ギャングの場合が最も明確である。白人や黒人の場合も似たようなシステムがあるが、メキシコ系に比べればやや不明瞭である。このように、アメリカでは人種により、ギャングの統制の仕方に大きな開きがある。
重要な点は、アメリカに存在するおよそすべての犯罪グループは、人種と密接に絡んで形成されていることだ。プリズンギャングもストリートギャングも、基本的には、人種や出身地を基軸として構成される。
なぜなら、刑務所内の人種ラインが非常に厳密で、アメリカでは刑務所に入ると、必ず黒人は黒人、白人は白人、メキシコ人はメキシコ人といったように、それぞれのグループに分かれて活動する。外の世界と同じような感覚で人種ラインを越えて交友関係を持つと、厳しい制裁が待っている。
この刑務所の仕組みが、そのまま外の世界に影響していると考えればわかりやすいだろう。
(まれなケースではあるが、日本人がアメリカの刑務所に入る場合は、アメリカ土着のネイティブ・アメリカンのグループに入れられるようである)
カリフォルニアの5つのプリズンギャング
人種でギャングが区別される実態は、カリフォルニアを中心とする西海岸がもっともわかりやすくなっている。カリフォルニアの代表的なプリズンギャングは以下の5つだ。
【ヒスパニック系】
メキシカン・マフィア(ラエメ、La Eme)
ヌエストラ・ファミリア(Nuestra Familia)
【白人系】
エイリアン・ブラザーフッド(Aryan Brotherhood)
ナチ・ローライダーズ(Nazi Lowriders)
【黒人系】
ブラック・ゲリラファミリー(Black Guerilla Family)
ほかに、イタリア系のマフィアもいるが、現在、マフィアは、アメリカの暴対法とも言えるRICOによる厳しい取り締まりで、衰退の一途をたどっている。以下、外国発祥でしっかり組織化されたものをマフィア、アメリカ発祥で比較的組織力の弱い集団をギャングとするが、それほどの差は無い。
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このサイトは、アメリカの凶悪犯罪に詳しい阿部憲仁氏の寄稿です。
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