ホームレスの知恵袋!
名古屋のホームレス
名古屋のホームレス(2011年)


 これは僕が1994年の夏に雑誌に書いた「ホームレスの生きる知恵」に関する原稿です。この年はひどい猛暑で、いったいホームレスの人たちはどうしているのかしら、と東京・新宿で話を聞いたもの。ハッキリ言って、笑える話がいっぱいなのだ!


いちばん新鮮な食べ物は、すし屋の残飯

 駅やコンビニでは、ゴミ箱をあさっているホームレスが多い。食生活は貧しそうだが、新宿で段ボールハウスを構える前島の兄ィは「刺身を食べてこそ、本物の乞食だ!」と断言。ホームレスって、そんなに豊かな食生活なの?

「俺、もう年だから、ファストフードのハンバーガーとかは嫌いなんだ。やっぱりコメが食いたい。いちばん新鮮なのが閉店直後の回転ずし。俺は新宿のすし屋のゴミ捨て場所は全部知ってる。でも、新人の乞食は何も知らないから、まずいものしか食えない。最悪の場舎、福祉センターでくれるカンパン3個だけだ。悪知恵がないと勝てないよ」

 そして兄ィは、墓地から盗ってきたリンゴを食べ始めた。

地下道に居すわるための、「鉄の掟」とは?

 一見まったくあてのない暮らしをしているように思えるホームレスだが、彼らにもルール(掟)はあるのだ。あるオヤジが強調したのが、なんと「ゴミを捨てないこと」というから仰天した。

「最近、とみに乞食が増えてきて、都も規制を強めてるんですよ。大がかりな叩き出しもありましたし。ここは居心地がいいですから、われわれはなるべく都を刺激しないように、清潔を心がけてるんです。一般人のほうが、よっばどゴミを捨ててます。

 ほかにも、朝7時から夜7時までばダンポールを敷かないようにしてます。こうした掟を守らない人間は、殺されても文句は言えません」

 実際、ホームレス同士のリンチ殺人も起きているのだ。

割のいい収入源は「少年ジャンプ」

“ホームレスは汚ない”というイメージは、実は、あまりあてにならない。ひんぱんに銭湯に通って、汗を流してる人たちも多いのだ。でも、お金はどうするのだろう。

「俺はね、雑誌売ってるの。一冊100円で。元手はタダだし儲かるよ」とホームレス歴20年の大久保清さん(自称)。駅で捨った新宿-豊田の定期を見せて、「これで車内のあみ棚やゴミ箱から、週刊誌を集めるんだ。『少年ジャンプ』なんか、よく売れるよ。発売当日なら、15冊あれぱ14冊は出るね」。

 いちばん困るのは週刊誌にからみついたガム。
「ゴミ箱にガムをそのまま吐き捨てるバカがいるんだ。まったくマナーがなってない」

初心者向けの収入源は電話ボックスに!

 雑誌集めは、初心者には難しいという。そこで素人ホームレスはテレカを集めて現金を得る。一昨年からホームレスをしている香川さんは、こう話す。

「一日歩けば、多いときで数十枚はテレカが集まるよ。使用済みのテレカは一枚15円、使いかけだと、残度数の3がけで買ってくれる人がいるんだ。使いかけのテレカは“あったかいもの”だから、本当に困ったときまで大切にとっておくんだよ」

いい服があれば、いつでも旅行に行ける!?

 電車賃がなくて、仕事が集まる高田馬場まで、30分かけて歩く人は多い。しかし、「飛び屋」の船木さんは、いつもタダで旅行してるという。

「駅にはさ、なぜか盛岡-福島なんて地方の定期が落ちてるの。そういうのを『捨い屋」が集めてきて、わしら『飛び屋』に売るの。『飛び屋』は、定期を払い戻すために福島まで行くんだな。ほら、払い戻しって区間内でやらないと怪しまれるから。

 服装にも気をつけるよ。わしなんて、シルクのスーツで行くもん。福島までの交通費? それも拾えばいいの。福島-東京往復切符とかあるじゃない。

 福島まで行ったら行ったでね、今度は福島-山形のチケットとか落ちてるから。わしはね、それでよく日本を旅行するんだ。もっとも青森か山口までだね。さすがに本土から出たことはないなあ」

キリスト教を信じれば、食料がいっぱい!?

 前出の大久保氏は、ホームレス生活は楽だといい切る。

「通りすがりの人が、オニギリやシャツ、お金までくれる。それとね、キリスト教の人がよく食料配給してくれるんだ。だからここのみんな、聖書持ってる。難しくって読んだことないけどさ。でも熱心な信者だと言えば食料いっぱいくれそうじゃない?

『乞食は3日やったらやめられない』って言うでしょ。まあ、最初の1-2カ月は不安だから大変だけど。3カ月めからは幸せだわ。もうやめられないよ。俺なんか、いつ死んでもバラ色だなあ」

 あなたもリストラされたら、参考にしてね!
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