韓国・幻の金鉱に行く
この奥に金鉱が!
最近ではあんまり聞かないけれど、その昔は「山師」という職業がありました。今でこそ山師は「詐欺師」とか「いかさま野郎」という意味ですが、本来は鉱脈を探し出して、鉱山の発掘を行う人間のこと。
見つけた鉱山の質がよければ、まさに一攫千金、人生ウハウハですが、失敗すれば借金かかえて夜逃げ候補生。
なんて素晴らしい生き方! というわけで、今回は、日本初の山師講座(笑)です。
●金鉱の見つけ方
戦前、資源の乏しかった日本は、国策として資源開発に乗り出していました。それで、けっこう「鉱脈の発見術」みたいな本が出版されています。たとえば昭和13年に出された、そのまんま『金銀鉱脈発見法』という本には、こう書いてあります。
《金脈の鉱石そのものは、風雨に打たれて赤い錆が出ている。遠方から見ると、その山全体の土が焼けて赤褐して見える》
《金脈は原則として必ず石英岩に寄生する。石英でも純粋の硫化鉱石というよりも、少し色がドンヨリと曇ったような、肌の細かな石英にありやすい》
それらしき鉱石を見つけたら、最低でも次の5点を確認します。
(1)その鉱石が硬度3(10円玉で傷が付く程度)以下であること
(2)真鍮色か白金色であること
(3)石英の3倍から4倍の重さがあること
(4)ソーダを加えてみて展性か延性が高いこと
(5)可切性があること
ちなみに、文政10年(1827年)に書かれた秘伝書『山相秘録』には、「金の精」として次のように書かれています。
《金の精は華の如くにして黄赤色の光りあり、初め土中より発生する時は、その勢い全く砲火の上るが如く6、7丈、あるいは10余丈の高きに昇り、開いて花形をなす。その華、必ず八雲に開くも、須叟(しゅゆ)にして(=しばらくして)空中に消え……》
これは、鉱脈の上層部にある燐酸塩が水と化合して発生した燐化水素ガスのことだとされています。燐化水素ガスは空気と化合して発火することがあり、それを「華」と表現したわけです。
さ、これであなたもバリバリ山師。さっそく山に入って金鉱を見つけましょう。
●金鉱を見つけたら
金鉱を発見したら、次に専門家による鉱石の分析が必要です。つまり、金が含まれていても、含有量が少なければ意味がないからです。一般的には、最低でも100万分の2くらいの含有量があれば、とりあえず金鉱といえます。100万分の2とは、1トンの岩石中に2グラムの金ということです。
では、分析報告書を見てみましょう。
分析報告書
上の報告書を見ると、1号鉱山は1トン中167グラムも含有しているため、この鉱脈が続けば、大儲けということです。逆に6号鉱山は1グラムしかないため、ほとんど儲けられません。
続いて下の報告書も見ましょう。こちらは1トン中6.5グラムなので、採掘コストが安ければ商売になりますが、それほどおいしいわけでもありません。こんな中途半端な鉱脈で勝負するか否か、それがあなたの人生の分かれ目なのです。
さて、僕の手元に朝鮮の金鉱山の売買契約書があります。朝鮮・京畿道抱川郡の永中面と一東面の一帯にある金銀鉱山で、昭和12年で27万円でした。当時、内地の初任給は45円程度だったことから考えるに、現在の貨幣価値で13〜14億円くらいでしょうか。これが高いのか安いのか、その判断は俺にはできませぬ。
売渡証書
(朝鮮鉱務所の名称がいい感じ)
廃坑跡から新しい金鉱が見つかることも多いので、気分は山師のオレは、ソウルから50キロ離れた抱川まで行って、この鉱山をチェックしてきたよ!
問題は永中面と一東面がどこにあるかですが、いろいろ調べて一東(イルドン)行きのバスターミナルを発見。チケット売り場で「イルドン、イルドン」と騒いで、ようやく乗車券をゲットしました(ソウルから440円)。しかし、次のバスは2時間後。
ここから『冬のソナタ』のロケ地・春川へもバスが出ているため、ヨン様ファンのオバサマからナンパでもされないかなー、なんて思ってましたが、見事に日本人ゼロ。
で、することもなく時間をつぶしていたんですが、何となくイヤな予感がしてチケットを確認。むろん、ハングルなんで全く理解できないんですが、周囲の人間に漢字で聞いて、結局、このチケットは二東(イイドン)行きだと判明。あわててチケットを交換です。
実は、この後も、バスを降りる場所がわからず「イルドン、イルドン」と叫び続けるわけですが、最後まで自分がいるのがイルドンかイイドンかわからずじまい。誰に聞いても、答えが違うんだもん。地名表示の看板もどちらか不明で、ホント泣きそうでした。
これはイルドン? イイドン?
(答えはイルドンです)
大雨の中、困って困って、なんとかヒッチハイクに成功。ようやくたどり着いたのは清渓山の貯水池でした。京畿道の観光サイト(←当てになりません)では《大物の鯉がいることで釣り人の足が絶えない観光地》とありますが、人っ子ひとりいません。ただし、ちょっと奥にはいると、確かにペンションが建ち並ぶ金持ちエリアでしたが。
100万トンの水量を誇る貯水池
ペンション群
とりあえずここが一東なのは多分間違いないので、車のオヤジに「金鉱はどこ?」と聞くと、「そんなのないよ」との返事(多分)。「じゃ、永中面って知ってる?」と聞くと、「ここから3キロ向こうだから、歩いていきな」との返事(多分)。
もう、このときは鉱山を探す気力も元気もなかったので、ここで撤退。残念ながら、金鉱の確認はできませんでした。
で、早くソウルに帰ろうと思ったものの、バス停の人間は誰も相手にしてくれず、チケットも買えないまま時間だけが過ぎていき、あたりは既に真っ暗。冗談抜きで野宿?
昔から、朝鮮では墓地の跡に金鉱が見つかるという伝説があるので、もしかしたら死者の怒りを買ったのかな……冷たい雨のなか、オレは泣きそうになりながら立ちつくしていたのでした。
制作:2004年12月13日
<おまけ>
鉱山内の地図はこんな感じで描かれます。儲けるためには、ひたすら掘り続けなければいけないわけで、結構大変ですな。
ちなみに山師というのは、徳川家康が制定した立派な職業です。しかし、鉱山詐欺が横行することで、どんどん言葉がいかがわしくなっていったのでした。