恐竜の化石を発掘しよう!
大人のための「恐竜」入門

ティラノサウルス
ティラノサウルス(国立科学博物館)


 1997年、イギリスの科学雑誌『ネイチャー』(5月23日号)に衝撃的なニュースが載りました。アメリカ・サウスダコタ州のインディアン居留地で発掘された「ティラノサウルス」の化石(愛称スー)に痛風の跡があったというのです。

 痛風は「ぜいたく病」といわれますが、まぁ、焼き肉とビールをガンガン飲みまくると、ある日突然、指先に激痛が走ったりします。原因はプリン体で、レバーやら白子やら海老などに多く含まれています。
 つまり、このティラノサウルスは、赤身肉や内臓を食べ過ぎたせいで、痛風になった可能性が高いのです。肉食恐竜なのに。

 同じ肉食でも、ライオンは痛風になりません。しかし、ワニはなります。ワニと恐竜は同じ爬虫類だし、まぁ親戚なのかも、と思います。ですが、古生物学の分類では別物。

 実は、今から2億数千年前の「三畳紀」の時代、この地球上はワニ類の天下で、恐竜はいつもワニの様子を窺いながら生きる負け組でした。

 ワニ、鳥、恐竜は、分類上「主竜類」に含まれます。主竜類は「クルロタルシ類」と「鳥頸類」に分かれます。簡単に書くと

【主竜類】
 ○クルロタルシ類(ワニ類)
 ○鳥頸類(鳥類、恐竜)

 で、「サウロスクス」など最強のワニ類が地上を支配していたのです。

サウロスクス
直立歩行するサウロスクス(ウィキペディアより)


 ところが、今から2億年前、地球上の生物の75%ほどが一気に絶滅してしまいます。このときサウロスクスなどの凶暴なワニ類は全滅。今のかわいい(?)ワニだけが生き残りました。

 そして時代は「ジュラ紀」「白亜紀」となり、ここで天敵のいなくなった恐竜は巨大化して、天下を取ります。

 ジュラ紀中期の恐竜には、モノロフォサウルスなどがいます。
 ジュラ紀後期だと、ハプロケイルス。鳥の祖先である「始祖鳥」より1500万年古く、三本指が使えました。

モノロフォサウルス
モノロフォサウルス(御所浦白亜紀資料館)
 
ハプロケイルス
ハプロケイルス(恐竜博2011)
 

 肉食恐竜で有名なのはアロサウルス。ものすごい爪を持っていました。 

アロサウルス
アロサウルス(御所浦白亜紀資料館)


 ジュラ紀後期から白亜紀前期にかけては、有名なステゴサウルスがいます。現在の北米と中国に生息していた、体長7メートルほどの草食恐竜です。

ステゴサウルス
ステゴサウルスの骨格(東北大学自然史標本館)


 白亜紀前期では、ティラノサウルスの祖先とされるラプトレックスなどがいます。特徴が似ていることから「ミニT・レックス」などと呼ばれます。
 日本では、福井で発掘されたフクイラプトルが有名。これは、肉食恐竜としては日本で初めて全身骨格が復元されました。

ラプトレックス
ラプトレックス(恐竜博2011)

フクイラプトル
フクイラプトル(東北大学自然史標本館)


 そして、白亜紀末期、有名な2大恐竜「トリケラトプス」と「ティラノサウルス」が登場します。
 トリケラトプスは北米に生息した草食恐竜。ティラノサウルスもやはり北米に棲息していた史上最凶の肉食恐竜です。

トリケラトプス
トリケラトプス(恐竜博2011)


 地上で大繁栄した恐竜ですが、今から6600年前、メキシコに小天体が落ち、地球環境が激変、絶滅します。
 これにより白亜紀(中生代)は終了し、古第三紀(新生代)となりました。

 恐竜の絶滅により、長らく虐げられてきた哺乳類の時代が始まります。
 そして重要なことは、ほとんど絶滅した恐竜は「鳥」として今に至るまで生き延びた点です。

 最古の鳥類とされてきたのが、ジュラ紀後期の「始祖鳥」(アルケオプテリクス)です(現在では、始祖鳥より1000万年前のアウロルニスが最古とされています)。

始祖鳥
始祖鳥(秋田大学鉱業博物館)


 白亜紀後期には、まるで鳥のように巣の中で抱卵する恐竜「シチパチ」もいます。ティアニュロングは全身が羽毛で覆われていました。

シチパチ
抱卵しているシチパチ(恐竜博2011)

ティアニュロング
羽毛で覆われたティアニュロング(恐竜博2011)


 また、ほとんど鳥と同じアンキオルニスもいます。2010年、このアンキオルニスを電子顕微鏡で観察し、メラニン色素を含む細胞器官メラノソームを発見したことで、恐竜の色が完全に再現されました。

アンキオルニス
アンキオルニスの皮膚も化石に(恐竜博2011)


 恐竜が鳥になって生き延びているというのは非常にわかりづらいので、ちょっと整理しておきます。
 まず下の画像を見てほしいんですが。赤い恐竜はT.rex。それは問題なし。

ドラえもん のび太の恐竜
『ドラえもん のび太の恐竜』DVD(アマゾンより)


 しずかちゃんが抱いているピー助は、水棲恐竜のようですが、これは「首長竜」というまったく別の爬虫類。また、空を飛ぶのはプテラノドンですが、これは「翼竜」であり、いずれも恐竜ではありません。

 先に書いた分類でいうと、鳥と恐竜は「鳥頸類」。ざっくりいうと、鳥頸類は「翼竜」と「恐竜」に分かれます。
 そして恐竜は、骨盤の向きによって「鳥盤類」と「竜盤類」に分かれます。

【鳥頸類】
 ○翼竜………プテラノドン、ケツァルコアトルス
 ○恐竜
 ・鳥盤類…ステゴサウルス、トリケラトプス
 ・竜盤類…ティラノサウルス、鳥

 鳥盤類には、ステゴサウルス、トリケラトプス、イグアノドンなどがいますが、すべて絶滅しました。
 竜盤類には、ティラノサウルスやブラキオサウルス(ほぼ最大の恐竜)がいて、ほとんど絶滅しましたが、実はここに鳥が含まれているのです。
 つまり、学術的に、鳥は恐竜の生き残りなのです。


 さて、せっかくなので、恐竜の化石を掘りに行くことにしました。

 日本では福井県あたりで恐竜の化石発掘ができますが、今回は熊本県の御所浦島へ。白亜紀資料館で化石採集用のハンマーとゴーグル(←必須)を借りて、いざトライ! ここでは、島の南部にある採石場から運び込んだ転石を自由に割ることができます。地層は白亜紀なので、まぁ、恐竜は無理でもアンモナイトくらい取れるかな?
 で、頑張って石を割ること1時間。貝の化石は何個も採れました。

御所浦島トリゴニア
おそらく二枚貝トリゴニアの化石


 それにしても、実際には恐竜の化石を探すのは大変です。恐竜が死んだとしても、死骸はほかの動物に食いちぎられ、雨で流され、幸運にも土に埋まったとしても酸性の土では溶けてしまいます。そして、その地層がどこかで露出していないと発掘もできません。

 ところが、モンゴルのゴビ砂漠は地盤がきわめて安定しており、死んだ恐竜がそのまま残っていることが多いのです。もちろん風化はありますが、パタリと死んだ恐竜がそのまま残るんですよ! そのため、恐竜の卵はもちろん、格闘している恐竜の化石、1メートル超の恐竜の足跡など貴重な化石が大量に見つかるのです(ただし現在ではほぼ盗掘されている)。

ゴビ砂漠
ヘリから見た広大なモンゴル高原


 そんなわけで、本サイトの管理人もチャーターヘリでゴビ砂漠へ行ってみました。白亜紀なので8000万年ほど前の恐竜が目の前に!

モンゴル恐竜化石
恐竜の背骨(恐竜名は不詳)

モンゴル恐竜化石
ゴビ砂漠の恐竜化石。近くには大量の卵の化石も


 なかには、血液のような赤い部分もありました。
 しかし、この赤い部分が仮に血液だとしても、時間が経ちすぎて、もうDNAは採れません。

 映画『ジュラシック・パーク』では、恐竜の血を吸った蚊を、琥珀から取り出してDNAを抽出しました。蚊は、爬虫類や両生類から吸血する場合もありますが、ほとんどは哺乳類か鳥類の血を吸います。ところが、哺乳類の赤血球にはDNAがありません(人間の赤血球にDNAはない)。一方、鳥の赤血球にはDNAが含まれています。
 つまり、恐竜が鳥に近く、赤血球にDNAがあったことで、『ジュラシック・パーク』の物語は成立したのです。


制作:2017年1月30日


<おまけ>
 新潟県のフォッサマグナミュージアムには、白亜紀の草食恐竜のウンコの化石が残されています。ついでにゴキブリの化石もありました。ゴキブリは3億年前から生きてるそうで、その生命力には驚くしかないですね。
ウンコの化石
恐竜のウンコの化石
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