「航空唱歌」でたどる空撮の旅
富士山の眺望
昭和13年(1938)8月、日本放送出版協会からある唱歌が発表されました。日本の唱歌の神様ともいえる山田耕筰が作曲し、西條八十が作詞した『航空唱歌』です。
当時、NHKはさまざまな曲を作っては、「国民歌謡」として発表していきました。今で言えば「みんなのうた」みたいな感じでしょうが、第1弾は『心のふるさと』と『祖国の柱』といった具合で、軍歌ではないけれど、基本的には愛国的な曲ばかりでした。
それでも『新鉄道唱歌』など名曲も多く、娯楽のない時代だけに、ラジオで流れると、みんなが口ずさんだほど人気を博したといいます。
これがラジオテキスト(33集)
話を『航空唱歌』に戻すと、これは『万歳ヒットラー・ユーゲント』(←すごい!)とペアの曲で、「東京より大阪まで」「大阪より新京まで」の2部構成になっています。新京(満州帝国の首都、現長春)まで、というのが時代を感じさせてくれます。
で、今回はゆったりと空から戦前の日本を眺めてみることにしました。当時の空撮写真にあわせ、東京〜大阪『航空唱歌』を全文公開です。
「航空唱歌ー東京より大阪まで」
爆音雲に谺(こだま)して
羽根田を出づる空の旅
横浜港(みなと)を一飛びに
左にうかぶ江の島の
翠(みどり)にむせぶ波白し
横浜港
江ノ島
箱根の嶮(けん)は迫りたり
高度はまさに千五百
杉の木の間の芦の湖に
過ぎにし旅を想ひつつ
はやくも渡る駿河湾
芦の湖。左下が航空無線局
右手に近く現れて
囁(ささや)くごとし雪の富士
時計を見れば一時間
静岡越えて浜名湖や
降(おり)る名古屋の飛行場
静岡市
歩兵34聯隊本部上空より。手前が静岡刑務所
名古屋広小路
波静なる伊勢の海
白帆の影もつかの間に
行手(ゆくて)に高く聳ゆるは
昔は鬼が棲みしてふ
名高き鈴鹿の峻嶺ぞ
伊勢湾、四日市の港
聞こゆるエーヤ、ポケットも
なんなく越ゆる銀の翼(よく)
嫩草山(わかくさやま)の姿円き
奈良の都を望むとき
大大阪ははや近し
奈良中心部。中央の五重塔は興福寺。右の池は猿沢池
大阪中之島
制作:2005年8月23日
<おまけ>
奈良から大阪に向かう途中にある生駒山の空撮写真です。左にあるのは、現存する最古の飛行塔。