未来派宣言
Manifesto del Futurismo

 1902年2月20日、詩人マリネッティはパリの新聞「フィガロ」に「未来派宣言」を発表します。当時イタリアは第一次世界大戦直前で不穏な空気の中にありました。虐げられてきた労働者階級の反発や植民地主義などに押され、従来の伝統文化や旧弊をすべて否定する気運が起こったのです。

 未来派は進歩しつつあった機械や速度のダイナミズムを絶賛、従来とは全く違う美学を成立させます。この理念は、以後、美術・建築・音楽・写真・映画などあらゆる分野を巻き込み、前衛芸術の一方向を確実に担ったのでした。

 ただし、1920年以降はファシズム思想と合流、最後は自然消滅してしまいました。

 でだ、100年後の現在、世界は結局この「未来派宣言」を越えられなかったと思われます。 20世紀の歩みは、まさにこの宣言の延長でしかありませんでした。新たな方向はなにも見えないまま、どん詰まり状態になってしまった現在、やっぱりもう一度この宣言を見直すべきでしょう。というわけで、この宣言を全文公開!

※訳文を読まれるに当たっての注意点※
 テキストはインターネット上の英語訳文を参照しました。原文自体が冗長で、直訳ではほとんど意味不明なため、目に付く日本語訳はどれも難解。そこで、意訳というかスーパー越訳しています。たとえば「われわれの詩の本質的な諸要素」を「本心」と訳すなど、ハッキリ言って試験で書いたら不合格な訳ですが、まぁ内容は一番わかりやすいと思います。
 またこの宣言中、もっとも有名な「自動車は『サモトラキのニケ』より美しい」という文章も、勝手に改変しています(だって今「サモトラキのニケ」なんてみんな知らないでしょ?)。なんで、これはあくまで参考訳だと思っておいてくださいね!




未来派宣言

 危険を愛し、いつもパワフルで無謀な我らを謳え!
 大胆不敵で、敢然となにかに刃向かっていたい、それが我らの本心だろう。
 与えられた言葉は、いつだって退屈で眠いものばかりだった。これから我らは熱に浮かれるまま、そして眠らず、死に物狂いで攻撃に走るのだ。
 我らが手に入れたスピードは、世界をより美しくした。ゴテゴテのマフラーからすさまじい爆音をあげ、機関銃のように疾走する自動車は、どんな美術品より美しい。
 スピード狂を賛美せよ! 加速された車は地球を横切り、軌道を越えて進むだろう!
 我らは原初の情熱を燃やす言葉を紡ぐため、あらゆる手段を講じるべきだ
 もはや美は闘争の中にしか存在しない。攻撃性こそ傑作の要件だし、未知なるものを人間の掌に収めることこそ言葉の使命だ。
 世紀の最前線にいる我らよ! 神秘的な不可能の壁を破るべく、常に前を向け。時空は既に死んだのだ、極端なまでの永久加速を持った我らは、もはや絶対の存在である。 
 戦争こそ我らの健康法だ。軍国主義、愛国心、アジテーション、殺戮の思想、女性蔑視。みんなみんな賛美しよう!
10 博物館や図書館? そんなものいらない! あらゆる学問の砦、道徳、フェミニズム、そして腐った心を叩きつぶせ!
11 金、快楽、反抗……理由は何でもいい、興奮した群衆を応援しよう! 街には革命の種が溢れてる。夜でも止まらぬ兵器庫の振動、列車を呑み込み続ける駅、煙を吐き続ける工場、威容を誇る建造物、水平線を越えて進む商業船、鉄路を驀進する機関車、プロペラの轟音が心地よい飛行機……そんなすべてを、さぁ謳いあげろ!


 この暴力的で扇情的な宣言を、我らはこのイタリアから発信し、ここに「未来派」を創設する。この国を考古学者や骨董研究家といった古びた連中たちから解放するために。長きに渡って古着屋状態だったこの国を、無数の墓場のような博物館から解放するために。

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