化け込み
木戸郎君、往来で可憐な小娘がうろついているのを見て、惻隠(同情)の心を起こして近寄ると、娘は恥ずかしげに番地を聞く
木戸郎、親切以上の親切で尋ねてやったがわからない。様子を聞けば、女優志望で親類を頼って上京し、女優の家への奉公口を探しているとの答え。大いに乗り気になり、知り合いの女優の家へ案内し、
口からでまかせの大提灯を持って、首尾よく奉公に住み込ませ、兄さん気取りで余計な世話まで焼いて得意がっている。
女優「どうも近頃はうっかり桂庵(斡旋屋)から女中を雇うと、人の悪い新聞雑誌の化け込み婦人記者っていうのがあるから、油断ならないわねぇ」
女優「あらっ! 私が寝そべってお団子食べたことがこの雑誌に出ているわ。じゃあ、おととい暇を取ったあの木戸郎さんが世話した、ああ、あの女中は化け込みだったに違いないわ。あんまりだわ、悔しい悔しい」
女優「木戸郎さん、なんの遺恨で化け込みなんぞ世話してくださったの? あなたとはもう絶好よ!」
木戸郎「へぇ、あの女が化け込みですか」と口あんぐり。(大正4年9月)
(注)当時、尖端的婦人記者が盛んに化け込みを行い、内幕をすっぱ抜くので、女優や貴婦人が大恐慌だった