嗚呼世界的
君が手にしているのはエジプト煙草で、僕のはマニラだ。今すするコーヒーは南米ブラジル産、このテーブルはチーク材だ。
さらに目を転じれば、トルコのカーペット、インド更紗の壁掛け、身につけた羅紗の原料はオーストラリアより舶来し、コーヒー茶碗はイギリスより来る。眼鏡の玉はドイツ製だ。読む本はフランス文で、表紙はロシア皮だ。
かく観じ来たれば、われわれの身辺はまったく世界的である。ああ、世界的よ。世界の物資を集めて、その上に生活することが、はたして誇りであろうか? 日本はこのほかにも世界に供給をあおぎつつある生活必需品がはなはだ多い。
ああ、呪わしき世界的よ、これゆえ日本は貧乏するのだ。
(大正10年6月)