山陽線唱歌 汽車 神戸〜門司
作詞・大和田建樹です。
1.
英名千古に曇なき 楠公忠死の湊川
清く流るる神戸市は 全国屈指の大港
2.
発車の時間待つ隙に めぐる附近の名所（などころ）は
生田、諏訪山、布引の 滝は駅より二十町
3.
やがて汽笛の声高く 忽（たちま）ち来る兵庫駅
和田の岬の灯台は 波にぞ影の横（よこた）わる
4.
むかし平家が福原に 都をうつしし跡ぞとて
のこる記念の塔一つ 平相国（へいしょうこく）の墓とかや
5.
須磨の関屋は何方（いずかた）ぞ 答えぬ松の風さむく
吹くや須磨寺一の谷 寿永（じゅえい）の夢の跡弔（と）わん
6.
うしろは名高き義経が 鵯越（ひよどりごえ）の逆（さか）落し
栄華に誇る平軍を 全敗せしめし古戦場
7.
松露（しょうろ）ほる子の影みゆる 舞子の浜の松林
木の間に霞むは淡路島 みやげになるは舞子焼
8.
すみゆく月の明石には 人丸神社明石城
春は人出も大久保の 梅林ちかく見つつ行く
9.
加古川附近に聞えたる 四箇所の松の名木は
尾上高砂別府（べふ）と曾根 嵐や琴を調（しら）ぶらん
10.
高さは二丈六尺の 石の宝殿仰ぎ見て
間もなく入るや姫路駅 城には第十師団あり
11.
名所は書写山増位山 白国（しらくに）梅林（ばいりん）広峰社（ひろみねしゃ）
その名きこゆる産物は 明珍（みょうちん）火箸に革細工
12.
ここより左右に別れ行く 左の線路は飾磨（しかま）港
右に見ゆるは播但（ばんたん）線 生野（いくの）城の崎遠からず
13.
素麺（そうめん）産地の網干より 龍野に通う電車あり
龍野醤油揖保（いぼ）の鮎 室津は近くの良き港
14.
旧藩侯の別荘と 名にも龍野の聚遠亭（しゅうえんてい）
枝垂桜（しだれざくら）の木の間より 一目見らるる播磨灘
15.
那波より近き赤穂城 四十七士の遺跡の地
煙たなびく塩田も 亦（また）おもしろき眺めなり
16.
船坂山は高徳（たかのり）が 後醍醐帝の遷幸（せんこう）を
道に要して奪わんと 義兵あげたる其（その）遺跡
17.
石筆（せきひつ）いづる三石（みついし）を 過ぎて吉永芳嵐園（ほうらんえん）
吉野嵐山（らんざん）兼ね得たる 名にも背かぬ花盛り
18.
むかし熊沢蕃山が 岡山藩主に聘（へい）せられ
子弟を教え導きし 名も閑谷の閑谷黌（しずたにこう）
19.
瀬戸うちすぎて西大寺（さいだいじ） 北条時頼入道が
手植にしたる名木の 桜は岩間の寺にあり
20.
早くも来ぬる岡山の 後楽園は我国の
三公園の其一つ 園内広く鶴遊ぶ
21.
三十二里の旭川 市を貫きて水清く
十七師団も此土地に 置かれて賑わう一都会
22.
中国鉄道に乗り換えて ゆくには二つの線路あり
作州津山に遊ぶべく 吉備津（きびつ）の宮にも詣ずべし
23.
瀬戸内海を横ぎりて 向（むかい）の岸の四国まで
ゆくには連絡汽船あり 讃岐めぐりも時の間ぞ
24.
金刀比羅宮に参拝し 栗林公園一覧し
屋島に平家が敗軍の 跡とむらうも旅の興（きょう）
25.
又岡山に立ち帰り 音に名高き備前焼
もとめてゆけば庭瀬にも 物産畳表あり
26.
玉島駅の南には 躑躅（つつじ）花さく円通寺
寺より見れば面白や 水島灘は目の前に
27.
金神（こんじん）駅には金光社 金光教会本部あり
笠岡附近の名産は 世にも広浜の水蜜桃
28.
天守は残る福山城 阿伏兎（あぶと）の観音鞆（とも）の浦
みな遠からぬ名所にて 鞆より出づるは保命酒
29.
尾道ゆけば千光寺 巌の上に寺ありて
見おろす海の小歌島 歌声たえぬ海士（あま）小船
30.
糸崎駅の海上を 南に出づる一里半
春は能事（のうじ）の浮鯛（うきだい）と 呼ばれて名高き見物（みもの）あり
31.
本郷よりは一里半 臨済宗の仏通寺
境内しずかに奥深く 安芸の高野と人は呼ぶ
32.
河内（こうち）の駅に見るべきは 深山（みやま）公園竹林寺
園は水あり遊ぶべく 寺は木深（こぶか）し涼むべし
33.
西条柿の名産地 西条すぎて走り行く
汽車は早くも海田市 日も呉線の乗替場
34.
呉軍港も見たけれど 帰りに残して真直（まっすぐ）に
ゆけば心も広島市 第五師団の所在の地
35.
大本営を置かれたる 名誉の記念は広島城
西湖をうつして名高きは 浅野家別墅（べっしょ）の縮景園
36.
二葉公園花さきて 風あたたかに吹く頃は
賑う饒津（にぎつ）の社まで 散歩に行くにも面白し
37.
日清日露の戦争に 軍隊輸送の大任を
全うしたる宇品港 出で入る汽笛四時絶えず
38.
己斐（こい）の松原五日市 おるれば草津の梅林
宮島駅の海上に 立てる鳥居は厳島
39.
いつ来て見んと思いつる 一百四十八間の
廻廊浸す夕汐に 浮べる月もながめたり
40.
是ぞ日本三景の 一つと呼ばるる風景の
浦は七浦豊公の 千畳閣に紅葉谷
41.
縮（ちぢみ）の産地岩国に かかれる橋は錦帯橋
橋みる人は電車にて 駅よりわずか二里ばかり
42.
神代（こうじろ）にては岩尾滝 大畠には瀬戸の景
ながめてゆけば柳井津 町には醤油木綿縞
43.
千年（ちとせ）に遺す徳山に 立てるは殉難七士の碑
その勤王の真心に 涙そそがぬ人あらじ
44.
三田尻よりは宮市の 松崎神社に詣ずべく
大道おりて見るべきは 大村兵部大輔（ひょうぶだゆう）の碑
45.
小郡よりは山口に ゆくべく湯田に浴すべし
小野田の次は厚狭（あさ）の駅 大嶺（おおみね）支線の乗替場
46.
糸根の松原いと早く 埴生（はぶ）も小月も打ちすぎて
長府に桜の名どころと 聞こえし寺は功山寺（こうざんじ）
47.
景色のよさに誰も皆 来て住吉の一の宮
あわてて手荷物忘るなよ ここぞ終点下関
48
これより海峡打ちへだて 向（むかい）は九州門司港（みなと）
関門連絡船しげく ゆきかう汽笛の声たえず
49.
安徳帝の大御霊（おおみたま） まつれる社は赤間宮
平家の亡びし壇の浦 今は栄ゆる町つづき
50.
城山公園桜山 夏は涼しき波に散る
小門（おど）の夜焚の篝火を 花かと見るも心地よや
51.
四時の眺望すぐるるは 亀山神社の岡の上
右には彦島巌流島 左に和布刈（めかり）の鼻みえて
52.
これより瀬戸を打ち渡り 九州廻りをして来んか
韓国釜山にゆく船も 煙噴き立て客を待つ
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