交流電気と直流電気
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電車の「電気」をめぐる旅
寝台特急「あけぼの」から見た「交流」と「直流」
寝台特急あけぼの(上野駅)
日本人なら誰でも知ってる、石川さゆりの『津軽海峡冬景色』。この曲の冒頭は、ご存じ「上野発の夜行列車下りたときから、青森駅は雪の中」ですね。
かつて、上野発青森行きの夜行列車は、急行「八甲田」「十和田」、寝台特急「はくつる」「ゆうづる」、寝台急行「十和田2号」などたくさんありました。
しかし、いずれも乗客の減少や車輌の老朽化により廃止され、寝台特急「あけぼの」だけが残っていました。
この「あけぼの」が2014年3月14日に廃止されるので、さっそく乗りにいってみたよ。
上野駅の出発は21時16分。
「あけぼの」には通常のA寝台、B寝台に加え、上野寄り1号車と青森寄り8号車に「ゴロンとシート」があります(1号車は女性専用)。これは寝具がない代わり、普通車の座席指定券で乗れます。寝台料金がかからず、乗車券に3660円加算するだけで乗れるのです。
高級感漂う「あけぼの」A寝台
寝具のない「ゴロンとシート」
さて、高崎駅では2分間停車するんですが、このとき多くの鉄道マニアが飛び出して、先頭の青い機関車を撮影に走ります。この機関車はEF64とよばれるもので、停車時間を考えるとこの高崎が最後の撮影場所になるのです。というのも、長岡駅で機関車が赤いEF81に変わるからです。
EF64とEF81がどう違うのかというと、一般に青い機関車は直流の電気機関車、赤い機関車は交流の電気機関車なんですね。つまり、長岡駅を境に、電気が直流から交流に変わるのです。
あけぼのEF64(高崎駅)
あけぼのEF81(八郎潟駅/雪深くて前まで出れない!)
交流と直流はどう違うのか。ざっくりいうと、
直流:電流の向きと大きさが一定。電池と一緒
交流:電流の向きと大きさが定期的に変化。東日本では毎秒50回、西日本では毎秒60回変わる
交流は電圧を変えやすいため、送電に向いています。つまり、コンセントに来てる電気は交流。
一方、直流はモーターを動かすのに適しているので、家庭用機器のほとんどは直流で動きます。よって、家庭では交流を直流に変える必要があるのです。それがACアダプターですね。しかし、このとき大幅にロスが生じるのが困った点です。
日本初の交流電気機関車は1955年に開発されたED44ですが、基本、機関車は直流だったため、交流電気を直流に変換する必要がありました。
それが回転整流器(変流機)です。下の写真は1933年から1967年まで芦屋で使われた回転整流器で、大阪の交通科学博物館に展示されていました。
回転整流器
回転整流器は複雑で、人手もかかりましたが、水銀整流器の導入で無人運転が可能になりました。下の写真の右側が水銀整流器で、これは1961年から1985年まで彦根で使われていたもの。国鉄最後の整流器です。
現在では半導体を使った高性能なシリコン整流器が使われています(下の写真左)。この整流器は1963年から1987年まで野洲で使われていた初期型のものです。
この分野の技術改善はめざましく、いま、シリコン(ケイ素)ではなく、炭化ケイ素を使ったSiCインバーターの開発が進んでいます。うまくいけば、エネルギー損失が100分の1になる可能性もあるとされています。
水銀整流器とシリコン整流器(交通科学博物館)
さて、JRの電化方式には3種類あって、一般路線では直流1500Vか交流20000Vが使われていて、新幹線はすべて交流25000Vが採用されています。東京、名古屋、大阪の3大都市圏をはじめ、在来線の多くは直流です。
新幹線は在来線より5000Vも電圧が高いですが、電圧を高くすると何がいいのか。
電気の基本的な公式は
電力(ワット)=電圧(ボルト)×電流(アンペア)
で示されます。出力150kW(150000W)のモーターの場合、1500Vの電圧だと100Aの電流が必要です。一方、25000Vだと6Aですむわけです。
電圧と電流の関係は、水が流れるホースと同じです。
蛇口を少しだけひねった場合、ホースを流れる水は少ないので、水は一定で出ます。しかし、蛇口を全開にすると、水量は多くなりますが、摩擦も大きくなるので、結果的に水圧が下がり、水は全量流れません。
同じように、電流が大きくなると、電気が全部流れず、電圧降下が起きるのです。電圧降下が大きいと電車は走れなくなるので、変電所の間隔を短くする必要があります。逆に、電圧降下が小さければ、変電所の間隔が長く出来るのです。
「あけぼの」の水量計
現在、都市圏では変電所は3〜5キロくらいの間隔でありますが、地方だと10〜15キロ程度の間隔となっています。この変電所はかなりコストがかかるので、電車会社は、いかに変電所を減らすか研究を重ねてきました。
では、変電所を減らしつつ、現状と同じだけの電流を流すにはどうしたらいいのか。
簡単なのは架線を太くすることですが、これは既存設備との整合性で問題が出るおそれがあります。
そこで注目が集まっていいるのが、超電導ケーブルです。これは電気抵抗がゼロなので、送電ロスが大幅に低減できます。
ほかには、鉄道車両に蓄電池を搭載するとかね。本来は、非電化区間を走行するためのものですが、うまくいけば変電所の削減にもつながります。 JR東日本の充電式電車「スマート電池くん」は実証実験が終了し、すでに烏山線に導入されています。
「あけぼの」の電力ランプ
(左から室内灯の全光、減光、保温、温水器、給電、火災報知器)
ちなみに、新幹線には回生ブレーキが装備されていて、減速するときのエネルギーを架線に戻して再利用しています。車両に蓄電池があれば、この回生エネルギーも有効利用できそうですね。
八郎潟駅を出る「あけぼの」
<架線の構造>
①饋電線(きでんせん):変電所から来た電力をトロリ線に給電する送電線
②吊架線(ちょうかせん):トロリ線を支える鉄製の線
③トロリ線:パンタグラフが接して、電車へ直接給電する細い銅線
④ハンガ:吊架線とトロリ線が並行するように5mほどの間隔で設置
⑤懸垂碍子(けんすいがいし):送電線を支え、鉄塔と電線とを絶縁する。交流だと碍子の数は増える。横だと長幹碍子という
⑥テンションバランサ:架線の張力を自動的に一定の値に調整する装置
⑦ブラケット:架線を支持する部材
さて、通常の電車は架線からパンタグラフで給電しますが、2014年にも着工開始されるリニア中央新幹線では、非接触型のワイヤレス(無線)給電が実現します。あんまり高速だと、物理的にパンタグラフがもたないからです。
すでにスマホの充電ではワイヤレス給電が商品化されており、トヨタも日産も無線給電車の実用化を目指しています。
リニア・モーターカー
の場合、車両を浮上・走行させる電磁コイルがワイヤレス給電にも流用できる点で好都合なんですね。
リニア中央新幹線は液体ヘリウムで車両側のコイルをマイナス269度まで冷却することで、電気抵抗ゼロの超電導状態を作っています。それで、地上から10センチも浮かぶんですが、それだけに電気代も相当食いそうです。JR東海が公表したところによると、時速500kmで走行するときの1車輌あたりの消費電力は約35000kW。
中央リニア新幹線に投入予定のリニアモーターカーL0系(エルゼロけい)の模型
(名古屋「リニア・鉄道館」)
JR東海もJR東日本も、社長がしばしば原発の重要性を訴えていますが、リニア新幹線は、原発がないと現状では動かせないのもホントのところです。
そんなわけで、本サイトの管理人は「あけぼの」を秋田県の八郎潟駅で下車することにしました。
八郎潟を埋め立てた大潟村の「道の駅おおがた」では、風車や太陽光パネルを使って必要な電力を自給する「地域版スマートグリッド」の実証実験が行われているからです。
雪まみれの太陽電池(大潟村)
前述の通り、電気は発電所から交流でやってくるので、使うときに直流に変換しなければなりません。しかし、そのときに大きなロスが出ます。大潟村の実験では、最初から直流で電力を供給する仕組みなのです。
まぁ、実際のところ、小さい範囲だから可能なわけで、広範囲な送電には不向きだと思います。しかし、直流と交流をめぐる冒険は、今後もずっと続いていくのです。
大潟村DCセンター。DCは直流の意味(ACは交流)
制作:2014年3月3日
<おまけ>
大潟村で採用されている発電用風車は、地元のメカロという企業が制作しています。これは世界で唯一「マグナス効果」を採用した風車です。青の円柱の羽を回転させると揚力が生じ、その揚力で、風車全体が回る仕組みです。このマグナス効果を利用した船がローター船です。
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ローター船(風行船)の世界