明治11年(1878)には府県会規則が制定され、ようやく地方制度が整い始めます。このときは「公選」という表記を使っていました(『明治事物起原』による)。
まぁ、通説では、この明治11年からまともな選挙が始まったとするみたいですね。で、明治14年に国会開設の勅諭が出され、明治23年(1890)に第1回衆議院選挙が行われます。これが日本最初の国政選挙。
ところが、翌明治24年12月の改選総選挙で、内務大臣の品川弥二郎と内務次官の白根専一が、暴漢を使って選挙民を脅迫するという事件が起こりました。品川は引責辞任していますが、これが記録に残る「日本最初の不正選挙」ということになります。
1度起こると、あとは雪崩のように不正がおきるのは世の常。いちばん多かったのが、選挙民の買収工作ですな。
明治25年(1892)2月10日の国民新聞が報じたところによれば、買収が熾烈を極めた奈良県で、1票の相場が5円にはね上がったとあります。選挙間際には10円まで値上がりしたため、選挙民はなるべくぎりぎりまで売らないで待っていたとか、うんぬんかんぬん。
当時、そば1杯1銭、大相撲枡席の入場料が1人35銭。明治20年には銀座1坪が50円で買えたので、1票の値段がいかに高騰したかわかるというものです。
ここで、大正6年(1917)に長野県で配布された「選挙の心得」を見てみましょう。ここには大正4年の選挙で1万人も捕まったと書いてあります。
(1)選挙人は自分で投票をしなければならぬこと
選挙人は選挙の当日自ら投票所に行き自分で投票をしなければならぬ、若(も)し代人を出して投票をせしめたり又は他人の代人となつて投票をしたりすると1月以上2年以下の禁錮に処せられます。(以上衆議院議員選挙法第98条参看)
(以下、箇条書きで、)
(2)金銭や品物や手形などを貰つてはならぬこと
(3)饗応や接待を受けてはならぬこと
(4)公私の地位を得ることに迷はされて投票や運動をしてはならぬこと
(5)投票所の往復に乗物に乗せて貰ひ又は車馬賃や茶代宿料等を出して貰つてはならぬこと
(6)選挙人は用水や小作料や貸借などの利害関係に誘はれてはならぬこと
(7)選挙人を嚇したり拐(かどわ)かしたり騙したり其の往来の便を妨げたりしてはならぬこと
(8)候補者の当選を妨げる為め有りもせぬ事柄を言ひ触らしてはならぬこと
(9)大勢集つたり鐘太鼓を鳴らしたり大旗を立てたりして示威運動をしてはならぬこと
(10)銃器や槍や刀や棍棒のやうな危険な物を携帯(もちあるい)てはならぬこと
《道楽発端称有志。阿房頂上為議員。売飛累代田畑去。貰得一年八百円》
(超訳すれば「道楽で始めたよぉ、先祖代々の土地売りゃ、“アホの頂上”が議員となって、毎年800円いただきまぁす!」みたいな感じですか? 要は、ばらまく金さえあれば、いくらでも議員になれたわけですな)
ちなみに国会議員の給料は、明治32年には年俸2000円、大正9年には3000円となりました。
かくて日本の選挙は、その高邁な理念とは別に、当初から「金がすべて」で成り立っていたのでした。
というわけで、みんな選挙ではしっかりと清き1票を投じましょうねっ!