コロボックルのお宅におじゃま!
吉見百穴へ行く

コロボックルの家
こちらコロボックルの家?


 コロボックルって知ってる?
 北海道アイヌの伝説に登場する小人のことで、「フキの下にいる人」という意味です。フキの葉に隠れられるほど体が小さいからとも、屋根をフキで葺(ふ)いた家に住むからとも言われています。また、アイヌ語ではbとpの区別がないので、コロポックルとも呼ばれています。

 コロボックルは北海道の原住民で、竪穴住居に住み、狩猟生活を送っていました。アイヌと仲がよく、頻繁にものを与えてくれたのですが、姿を見せてはくれません。ある日、アイヌがその姿を見ようとしたところ、コロボックルは怒って、以後、アイヌの前から消えてしまった……というのがよく聞くお話。

 今回は、そんなコロボックルの家に行ってみた! 北海道の家はこんな感じ。

コロボックルの家
北海道平取にて


 でだ。今回の目的は北海道ではありません。
 実はコロボックルの住居跡とされた洞窟が、埼玉県にあるんだな。それが吉見百穴(冒頭の写真)。
 現在では、この百穴は集合墳墓跡というのが定説になっていますが、本当にコロボックルがいそうでしょ? 手前には、第二次世界大戦中、軍需工場を建設するため掘られたトンネルがあり、もはやこちらの方が名所になっていますが……。

巨大トンネル
延々続く巨大トンネル


 とりあえず、トンネルができる前の百穴に行ってみましょう。かなり不思議な光景です。

吉見百穴
大正時代?の百穴
(穴の数は237。現在は219)


 で、こちらがコロボックルが書いたとされる古代文字(神代文字)です。まぁ、日本中に神代文字というのはたくさんありますが、実際のところ、すべて偽造だったりもします。しかし、こちらは刀剣なんかと一緒に出土したモノなので、それなりに意味はあったのかもしれません。

神代文字
神秘の古代文字


 さて、この百穴は、明治時代の初めから地元で話題になっており、当時の名だたる外国人が見学にきています。たとえば大森貝塚を発見したモースとか、シーボルトの次男ヘンリー・フォン・シーボルトとか。

シーボルトの自署
こちらシーボルトの自署


 それにしても、いったい何でシーボルトやモースが見に来るのか? ネットを検索してたら、わかりやすい文章を見つけたので、転載しておきます。

《幕末に来日したドイツ人の医師フイリップ・フォン・シーボルトは、英文誌『日本』の中で、日本の先住民をアイヌと述べており、彼の次男で日本駐在のオーストリア公使館秘書官であったヘンリー・フォン・シーボルトもまた明治11年の夏、日高の平取などアイヌ部落を調査して、翌年英文誌『日本考古学』と邦文誌『考古略説』を著し、父シーボルトのアイヌ先住民族説を補稿した。
 ……(明治11年という年は)人類学、先史学の先駆者エドワード・シュベスター・モースが貝塚の採集をかねて函館、小樽、札幌、白老などの貝塚やアイヌ集落を調べた年でもある》(函館市のサイト内『函館市史』より)


 つまり、2人とも日本の先史を研究してたわけですが、特にモースは、日本の先住民をアイヌと断定するために各地を調査してたのです。


 ところが。
 明治20年(1887)、東大の人類学者・坪井正五郎は、この吉見百穴を初めて発掘調査し、同年、石器時代の日本列島に住んでいたのはコロボックルであり、アイヌに追われて日本から姿を消したという学説を発表します。

 以後、学会では20年以上にわたって「日本人の起源はアイヌなのかコロボックルなのか」という大論争が続きました。今から見れば「コロボックルなんて」と思うのも当然ですが、坪井は東大構内で弥生式土器を発見し、「弥生時代」という言葉を作った大御所だけに、強い説得力があったのです。

 この論争は大正2年(1913)、坪井が死んだことで決着がつかないまま終結しますが、この大論争が人類史研究に大きな貢献をしたのは紛れもない事実なのです。

 そんなわけで、コロボックルには会えませんでしたが、見て大満足の吉見百穴でした。

制作:2006年9月7日

<おまけ>
 
 この吉見百穴のすぐ近くに、岩室観音があり、その横に岩窟ホテル(高壮館)と呼ばれるものが残っています。

岩室観音 高橋峯吉
岩室観音と高橋峯吉

 これは近所の農民・高橋峯吉が明治37年6月から大正14年7月まで21年間、独力でくりぬいた宮殿風の洞窟です。内部はかなり整備されていましたが、崩落が激しく、残念ながら昭和63年に閉鎖。現在は見るも無惨な姿になっています。
 なお、岩窟ホテルは実際にホテルに使ったわけではなく、「岩窟掘ってる」から来た言葉だそうです。
 やっぱ、昔の日本には偉大な人間がたくさんいたんですな。

岩窟ホテル 岩窟ホテル
在りし日の岩窟ホテルと、現在の様子

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