熊本地震「復興」の現場を行く
あるいは頑張る国土交通省
通行止めが続く国道57号
2016年4月14・16日の2回、熊本を震度7の地震が襲いました。山林崩落、道路寸断、橋梁破壊と甚大な被害が出ましたが、なかでも阿蘇大橋が「消滅」したことは記憶に新しいと思います。
阿蘇大橋は国道57号と国道325号の交点で、交通の要衝です。
しかし、山の斜面が長さ700m、幅200mにわたって大規模に崩れ、国道57号と豊肥本線、そして阿蘇大橋が丸々崩落したのです。
阿蘇大橋の崩落現場
地震などの災害が起きると、国土交通省のTEC-FORCE(テック・フォース=緊急災害対策派遣隊)と呼ばれる組織が即座に現地入りし、被災状況の把握、被害の拡大防止、そして被災地の早期復旧を目指して動き出します。
最近、大きな災害が起きるとすぐにヘリやドローンによる空撮映像が流れますが、これもTEC-FORCEの任務の一環です。
熊本地震では、地震から1週間後の4月22日には約440人が被災調査を実施し、5月31日までに延べ約8200人が派遣されました。
こうした迅速な調査が、早期の復旧に役立っています。
そんなわけで、地震からちょうど半年後、その復旧状況を見に行くことにしました。
熊本城と石垣の崩落
阿蘇大橋近くの崩落した家
阿蘇大橋近くのコンビニ駐車場の陥没
いよいよ、阿蘇大橋の崩落現場に到着です。手前の左岸から右岸を見ます。ひとめで斜面崩壊の大きさがわかります。今回、大きな被害を受けたのは、布田川断層帯に沿った地域でした。
阿蘇大橋の崩落現場からは阿蘇長陽大橋が見えます。こちらは一部寸断されたものの、橋自体の損傷は少なく、2017年夏に開通予定です。これにより、交通が一気に復旧する見込みです。
阿蘇長陽大橋
阿蘇長陽大橋は「PCラーメン橋」という工法で施工されています。
PCとは「プレストレスト(あらかじめ力を与えておく)コンクリート」の略。
通常、コンクリートは圧縮に強く、引っ張りに弱いんですが、コンクリート内に、縮もうとするケーブルを入れておくことで、鉄筋コンクリートより引っ張りに強い建築素材となります。
そして「ラーメン」とは「骨組み」を意味するドイツ語で、簡単に言えば、橋と橋脚をきっちり結び付けた構造です。
一方、崩落した阿蘇大橋は、トラスと呼ばれる三角形の骨組みによるアーチ橋です(上路式トラス逆ランガー桁橋)。
グーグルストリートビューに残された阿蘇大橋
耐震用の補強ダンパーの設置などはおこなっていましたが、土砂崩れに耐えられず、落橋しました。
ラーメン構造ではないので、橋と橋脚が「支承」によって接合されています。この支承によって、荷重を逃がし、震災時のたわみに対応できる仕組みです。
しかし、熊本地震では支承の多くが破壊されました。補強用のPCケーブルも、見事に切断されています。国交省は、新阿蘇大橋をPCラーメン橋で建造することを決めています。
補強用のPCケーブルがちぎれ支承が脱落
さて、この崩落した斜面はどのように復旧させるのか。
斜面上部にはクランクがあり、いつまた土砂が崩れるかわかりません。そこで、上部の土砂を除去する「ラウンディング」と、土砂を受け止める「土留め盛り土」(高さ3m長さ200mの2段構え)を作りました。
ラウンディングと土留盛土
もし工事中に斜面が崩壊し、二次災害が起きたら大変なので、無人操縦できる土木機械を使用しています。この「阿蘇大橋地区斜面防災対策工事」は熊谷組が担当しています。
工事で大きな障害となったのは、以下の2つ。
●ラウンディングするための建機(ユンボ、バックホー)を上部に運べない
●雨が降ると、阿蘇特有の「黒ボク土」が泥濘化し、建機が動かない
そのため、建機は12分割し、ヘリで空輸。さらに、石灰などで土質を改良しながらの工事となりました。
ちなみに急斜面につり下げられた無人重機は、土中に埋めたウインチで移動させながら土を掘削して除去しています。
無線LANで無人操縦
一方、地震で200万トンにもおよぶ大量の災害廃棄物が出ました。
木くずや畳は破砕機でチップ化し、バイオマス発電の燃料として処理します。そして、その焼却灰をセメントの粘土の替わりとしてリサイクルすることになっています。災害廃棄物をもっとも受け入れたのは太平洋セメントグループで、廃棄物をセメントにリサイクルすることで、復興を支援する予定です。
制作:2016年11月27日
<おまけ>
国交省は、災害対策のためのいろいろな特殊車両を保有しています。衛星通信車、排水ポンプ車、照明車などは想定内ですが、ゴム製のキャタピラでどんな悪路も走行できる「特殊調査車」なんてのもあります。
あるいは、くねくねとした動きでさまざまな角度から橋を点検できる「橋梁点検車」も。そんなわけで、「橋梁点検車」に乗ってみたよ。
橋梁点検車