TPP最終講義(1)
加入するとどうなるのか?


 TPPに加入するとどうなるのか、まとめておきたいと思います。加入すると関税がなくなるので、一般に次のように言われます。

 ・テレビや車など、輸出産業はさらに輸出が増える
 ・安い食糧が大量に輸入され、農業は壊滅する

 
 要は、経産省と農水省の戦いということですな。しかし、実はTPPは関税以外にも、規制の撤廃などが含まれます。
 そこで、もう少し詳細に、わかりやすくまとめてみました。

<農業>
 関税がなくなると…
  ↓外国から安い肉や米が大量に入ってくる
  ↓国内の農家がどんどん潰れ、食料自給率が激減
  ↓一方で、大規模農業が促進される可能性も

 さらに、食品購入に際し、原産国、農法などが選べなくなるので、農薬たっぷりで、遺伝子組み換えが当たり前の食品が増えるでしょうね。なお、メリットとしては、高品質の農産物が外国に売れることはありえます。特に中国と個別に自由貿易交渉すれば可能性高いかも。

 では、産業はどうか。経産省は輸出が増えると言いますが、巨大市場のインドもインドネシアも、もちろん中国も関係ないので、輸出はそれほど増えないはずです。ただし、製造コストの上がってる韓国との競争ではかなりメリットがあります。

<企業・産業>
 関税がなくなると…
  ↓輸出企業は海外への輸出がわずかに伸びる
   (ただし、日本の輸出はGDPの15%程度なので、それほど効果はない)
  ↓輸入企業・国内ローカル企業は壊滅的な打撃
  ↓デフレが進み、物価は安くなるが、リストラも拡大
  ↓採算の悪い工場が閉鎖または海外移転で、仕事が消滅

 規制がなくなると…
  ↓電力、放送、交通など基幹産業や大企業が外資に
  ↓郵貯・簡保・銀行・共済のカネが外資に流出
  ↓公共事業の入札で資力のある外資が独占
  ↓正社員の大量リストラ・非正規雇用の激増

 となって、たぶん、いっそう貧困社会になるでしょう。
 食品の安全性に問題があり、世の中に貧乏人が増えると、病人が増えますね。では医療はどうなるか?

<医療>
 規制がなくなると…
  ↓国民皆保険が消滅。貧乏人は医者にかかれなくなる
  ↓保険が高くなり、金持ちだけが高度治療を受けられる

 おもな社会の変化はこんなところでしょう。


 しかし、実はまだ知られていない面があります。それが知財の強化です。
 著作権法が強化されると何が起きるのか? 現在、コミケやニコニコ動画では、漫画やキャラクターを利用した2次創作が盛んですが、これらが壊滅する可能性があるのです。
 
 どうしてかというと、「非親告罪化」によって権利者が告発しなくても有罪にできるし、「法定賠償金の高額化」により、実際の損害がなくても高額な賠償金を請求できるからです。

 さらに、特許法も厳しくなると、単純な技術も特許で保護されることになります。たとえばスマホの操作方法とか、病院の診察方法とか。さらに「匂い」とか「メロディ」まで特許で縛られる可能性がありますね。


<知的財産>
 著作権が厳しくなると…
  ↓ニコ動やコミケが危機的な状況に
  ↓インターネットの監視が厳しくなり、コピーは消滅
  ↓しかし、洋楽の並行輸入は消滅

 特許権が厳しくなると…
  ↓スマホの操作方法や「香り」まで特許に


 もうひとつ大きな問題があって、それがISD条項と呼ばれるもの。これは外資企業が相手国政府を簡単に訴えることができる権利です。

 こちらは実際に事例があって、2012年11月、アメリカの投資銀行ローンスターが韓国政府を訴えています。ローンスターは破綻寸前の銀行を買収し、リストラ後、売却しようとしました。ところが韓国政府は買収が不当な低価格だとして国内で起訴していました。ローンスターはこれが政府による妨害だとして、巨額の賠償請求をしたのです。

 裁判はワシントンの「国際投資紛争仲裁センター」で行われるので、ローンスターは実際に損したわけでもないのに、おそらく完勝するでしょう。

 このように、政府の規制やら税制やらを外資系企業がどんどん訴え、賠償金を取ることができるのです。これが関税だけでなく、規制が撤廃されていく大きな理由です。

 日本以上の貿易立国である韓国は、アメリカやEUとFTA(自由貿易協定)を結んでいて、知財強化もISD条項も丸呑みしています。
 つまり、日本もTPP加入で同じ道をたどる可能性が高いのです。

 現在、サムスン電子の株式は54%が外国人の保有になっています。そして、現代自動車も鉄鋼のポスコも大手金融企業もみな外資に支配されています。

 日本もTPPに加入すると、トヨタもフジテレビも成田空港もみんな外資になる可能性が高いんですね。
 本サイトの管理人は政治的な発言は控えているんですが、まぁ、TPPに加入すると、つらい社会になりそうな気がします。

 以上を整理すると、10年後の日本は、

 ●サラリーマンは完全能力主義
 ●企業は基本的に外資系に
 ●経済格差が増大し、生活の質が悪化
 ●アメリカへの隷属が格段に進む


 という状態になっているでしょうね。


制作:2012年12月17日


<おまけ>
 TPP加入によるGDP予測をまとめておきます。

 ●参加すると、農業関連GDPが4.1兆円減少、環境面の損失3.7兆円、全体で11.6兆円の 損失(農水省)
 ●参加すると、GDPが「10年」で2.7兆円増加(内閣府)
 ●参加しないと、2020年までに10.5兆円減少(経産省)


●TPP最終講義(2)歴史編「自由貿易と保護貿易論争の誕生」
●戦後「日米経済史」年表:アメリカからの圧力60年史
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