「ライト式建築」の発展
首相官邸の玄関
1923年に完成した旧帝国ホテルを設計したフランク・ロイド・ライトは、「形態と機能は1つである」として、「有機的建築」という理論を提唱しました。
建物はバランスよく環境と一体になるべきだ、とする考えは、ル・コルビュジエの「住宅は住むための機械」という考えと正反対のものです。
そのライトの建築で、現在日本に現存する作品は、「自由学園・明日館」「山邑邸(現・ヨドコウ迎賓館)」「林愛作邸(現・電通八星苑)」くらいしかありません。林愛作は帝国ホテルの元支配人です。
そんなわけで、まずは、自由学園の明日館を見に行ってみました。
明日館の庭はけっこう広くて居心地がいいのですよ
自由学園とは、大正10年(1921)、羽仁吉一(はによしいち)と羽仁もと子によって創設された、キリスト教系の学校です。文部省令によらない教育機関で、「真の自由人をつくりだすこと」を目的としています。
明日館は校舎として建てられましたが、現在は卒業生の事業活動に使われています。
見事な光線の演出
さて、ライトの建築思想は、日本の建築家たちに大きな影響を与え、以後、「ライト式建築」「ライト風建築」と称されるものが続出します。
たとえば駒澤大学の図書館「耕雲館」(菅原栄蔵設計)とか「高輪教会」(岡見健彦設計)とか。
なかでも有名なのが、甲子園ホテルと首相官邸の2つ。
甲子園ホテル西翼
甲子園ホテル広場
甲子園ホテルは、昭和5年(1930)にライトの弟子・遠藤新が設計したもので、かつては「東の帝国ホテル、西の甲子園ホテル」と並び称されました。現在は武庫川女子大学の甲子園会館となっています。
完成直後の首相官邸
リフォームが終わった現在の首相官邸
一方、旧首相官邸は、昭和4年に完成。設計は大蔵省営繕管財局の下元連(しももとむらじ)。旧官邸は2・26事件の現場となり、当時の弾痕がそのまま残っていたそうです。「夜中に幽霊が出る」というのは有名な話でしたが、現在は世界初の家庭用燃料電池を導入するなど、ハイテク化が進んでいます。
舞踏場
執務室
実はライトが作った帝国ホテルは雨漏りがひどかったそうですが、でもやっぱりライト風建築って優美でいいですね。
制作:2006年12月24日
<おまけ>
自由学園を創設した羽仁もと子は、報知新聞社で働いた日本初の女性記者です。
結婚後の1903年、雑誌『家庭之友』(後の『婦人之友』)を創刊します。そのため、今も婦人之友社は、自由学園明日館のすぐそばにあります。
ちなみに家計簿も、羽仁もと子が発案し、婦人之友社で売り出したものが日本で最初です。
また、羽仁もと子の長女は羽仁説子で、その婿が国立国会図書館の設立に尽力した羽仁五郎です。