ボストーク1号
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ガガーリン資料集5
宇宙船「ボストーク1号」の構造
ボストーク1号の船室内部
1:宇宙飛行士の操縦装置 2:地球儀のついた計器板 3:テレビカメラ
4:光学的方向決定装置つきのぞき窓 5:宇宙船の方向制御用ハンドル
6:ラジオ受信機 7:食糧品容器
宇宙船「ウォストーク」(ボストーク1号)号は、以前の数回にわたるソビエト衛星船の打ち上げのさいにえられた経験にもとづいて建造された。
衛星船は2つの主要部分からできている。
ーー飛行士室。ここに宇宙飛行士がのり、また生活活動を保障する装置と着陸装置がおかれている。
ーー計器室。これは、軌道飛行中にはたらく機器類と、宇宙船の制動用動力装置をいれておくためのものである。
軌道にのったのち、衛星船は、運搬ロケットの最終段から切りはなされる。飛行中、衛星船上の機器類は、一定のプログラムにしたがってはたらいて、軌道要素の計測、遠隔測定情報や宇宙飛行士のテレビ映像の地球への送信、地球との往復無線通信、船内における所定の温度の維持、飛行士室内の空気の調和を保証する。機器類の動作の制御は、宇宙船につまれたプログラム装置によって自動的におこなわれるが、必要におうじて宇宙飛行士の手動でもおこなわれる。
人間の最初の宇宙飛行のプログラムは、地球の周囲を一周する予定を組んでいた。しかし、衛星船の設計と装置からすれば、もっと長時間にわたる飛行も可能である。
飛行プログラムの完了後、着陸にさきだって、宇宙船は、特殊装置によって一定の方向に向けられる。ついで、軌道上の予定地点で制動用エンジンのスイッチが入れられる。すると、宇宙船の速度は、必要な速度まで減速する。その結果、宇宙船は降下の軌道にうつっていく。
宇宙飛行士ののっている飛行士室は、大気中で制動をうける。このばあい、船体が濃密な大気層に突入するさいの過荷重が、人間にとって許容される限度をこえないように、降下の軌道をえらばなければならない。宇宙船の船室が予定の高度まで降下したのち、着陸装置のスイッチがいれられる。飛行士室の直接の着陸は、ゆるやかな速度でおこなわれる。制動用エンジンのスイッチがいれられてから着陸するまでに、宇宙船は約8000キロメートルを飛行する。降下段階にはいってからの飛行時間は、およそ30分である。
濃密な大気層のなかを降下する段階での運動のために船室が燃えてしまわないように、飛行士室の外面は耐熱材で被覆されている。船室の外囲には、のぞき窓が3つと、急速に開く揚げ蓋(ふた)が2つついている。のぞき窓には耐熱ガラスがはまっていて、宇宙飛行士は飛行中ずっとこの窓から外界を観察できる。
衛星船内では、宇宙飛行士は射出装置づきの座席にすわる。この座席は、飛行中の宇宙飛行士の作業場所であるとともに、必要におうじて宇宙飛行士を船体外にはねだす装置となっている。座席は、上昇の段階や降下の段階で過荷重がもっともこのましい方向(胸から背への方向)で宇宙飛行士にかかるように、つくられている。
最初の宇宙飛行にあたって、宇宙飛行士は、飛行中に船室内の気密がやぶれたときでも、生命に別状をきたさず、活動能力をたもたせる防護気密服を着ていた。
衛星船には、さらにつぎのものがのせられていた。
ーー人間の生活活動に必要な機器と装置(空気調和装置、圧力調節装置、食物と水、生活活動の産物をとりのぞく装置)
ーー飛行状況監視用機器と宇宙船の手動操縦装置(飛行士用制御盤、計器板、手動操縦ブロックその他)
ーー着陸装置
ーー宇宙飛行士と地上とのあいだの無線通信装置
ーー計器のしめすデータの自動記録装置、無線遠隔測定装置および各種の検出装置
ーー地上から宇宙飛行士を観察するためのテレビ装置
ーー人間の生理的機能の記録用の機器
ーー宇宙船の制動用エンジン
ーー方向決定装置
ーー飛行制御用機器
ーー軌道要素の無線計測装置
ーー温度調節装置
ーー電源
宇宙船の外面には、操縦用の機器、方向決定装置の部分品、温度調節装置のシャッター、無線通信装置のアンテナがとりつけられている。
衛星船の飛行士室は、飛行機の換縦席よりもずっと広い。船室は、飛行中の宇宙飛行士の作業の便宜を考えて装備されている。宇宙飛行士は、座席にすわったままで、観察、地球との通信、飛行状況の監視、また必要となれば、宇宙船の制御のために必要な換作をすべておこなえるようになっている。
飛行士の座席の本体には、つぎのものが組みこんである。
ーー射出時やパラシュートでの降下のさいに飛行士の身体を固定するための繋縛(けいばく)装置のついた分離式の背もたれ
ーーパラシュート装置
ーーカタパルト射出装置
ーー携帯非常用品(食料品、水、非常装具)と、無線通信機および方位測定装置(これは、宇宙飛行士が着陸後に使用するためのものである)
ーー気密服の換気装置とパラシュート用酸素吸入器
ーー座席の自動調節装置
宇宙飛行士は、宇宙船の船室にはいったままで着陸することもできる。このような着陸方法は、実験動物を船室にのせた第4号および第5号のソビエト人工衛星船で試験ずみである。また、約7キロメートルの高度で宇宙飛行士がすわったまま座席を船外に射出し、それからパラシュートで着陸するという方法も、考慮された。この方法も、数回の衛星船打ち上げのさいに試験ずみである。
衛星船に設備された空気調和装置は、飛行士室の内部の正常な圧力と正常な酸素濃度を維持し、炭酸ガスの濃度を1%以下にたもつ。温度は摂氏15度から22度のあいだに維持され、また相対湿度は30%から70%のあいだに維持される。
空気中の成分の再生ーー炭酸ガスおよび水蒸気の吸収と、相当量の酸素の分離ーーは、高度の活性をもった化合物を利用しておこなわれる。再生過程は自動的に調節される。酸素の量がへり、炭酸ガスの濃度が高まると、特殊な検出装置から信号が出される。そうすると、操作機構がはたらいて、空気再生器の作動条件が変えられる。また酸素の量が過剰になると、操作機構が自動的にはたらいて、船室の空気中への酸素の送入量が減少する。空気の湿度の調節も同様にしておこなわれる。
空気が、人体の生活活動や機器類の作動によって生じる有害な物質で汚染されたばあいには、特殊な濾過(ろか)器で浄化される仕組みになっている。
飛行中の宇宙船内の所定の温度条件の維持は、温度調節装置によっておこなわれる。この装置の特徴は、飛行士室の熱を吸収するために、安定した温度をたもつ液状冷媒をもちいていることである。冷媒は、温度調節装置を出て、液体空気利用の冷却器にはいる。冷却器からの空気の放出は、降下中の宇宙船内の温度におうじて自動的に調節される。こうして、船室内ではきわめて厳密に所定の温度が維持される。
冷媒の温度を維持し、計器室内部の必要な温度条件を確保するために、計器室の外面には、シャッター設備をそなえた放射式熱交換器がとりつけられている。これの制御も自動的におこなわれる。
予定地区に降下するためには、制動用エンジンのスイッチを入れるまえに、衛星船に空間内で完全に一定した方向をあたえなければならない。この課題は、方向決定装置によって解決される。今回の飛行では、方向決定は、宇宙船の軸の一つを太陽の方向に向けることによっておこなわれた。この装置の要素検出素子は、2組の光学的検出装置およびジャイロスコープ式検出装置である。これらの検出装置から発せられる信号は、電子回路ブロックのなかで、操縦装置を制御する命令に変換される。
方向決定装置は、自動的に太陽を捕捉し、それにおうじて宇宙船を回転させ、きわめて正確に必要な姿勢を維持させる。
宇宙船が正しい方向にむけられたあとで、一定の時点で制動用エンジンのスイッチが入れられる。方向決定装置や、制動用エンジンその他の装置のスイッチを入れる命令は、電子プログラミング装置によってあたえられる。
衛星船の軌道要素を計測し、衛星船の機器類の動作を制御するために、船内には無線計測機器と無線遠隔測定機器がそなえつけられている。宇宙船の運動のパラメーターの計測と、宇宙船の飛行中に入手された無線遠隔測定情報の受信とは、ソ連領土の各地に配置された地上ステーションによっておこなわれる。計測データは、通信線路によって自動的に計算センターに伝送され、そこで電子計算機にかけられて整理される。
こうして、飛行の過程で、主要な軌道要素についての情報が急速に入手され、宇宙船のその後の運動が予測される。
衛星船にはまた19.995メガサイクルの周波数で通信をおくる「シグナル」型無線通信機がのせられている。この装置は、宇宙船の方位測定と、無線遠隔測定情報の一部の送信にもちいられる。
テレビ装置は、宇宙飛行士の映像を地上に送信する。これによって、宇宙飛行士の状態を目で観察することができる。テレビ・カメラの一つは、正面からみた飛行士の映像を、もう一つのカメラは横からみた映像を送信する。
宇宙飛行士と地上との往復通信が、無線電話機によって確保されている。このシステムは、短波帯(9.019メガサイクルと20.006メガサイクル)および超短波帯143.625メガサイクル)で通話をおこなう。
超短波チャンネルは、1500キロメートルから2000キロメートルまでの距離の地上局との通信に利用される。短波チャンネルによるソ連領土内の各地上局との通信は、実験上、軌道の大部分にわたって確保できることがわかっている。
無線電話装置には、テープレコーダーがふくまれていて、飛行中の宇宙飛行士のことばを録音し、宇宙船が地上受信局の上空を通過するさいにそれを送信できるようになっている。さらに、宇宙飛行士は、無線電信による送信もおこなえるようになっている。
船室内に装備されている計器板と操縦装置とは、宇宙船の主要な装置類の動作を制御し、必要なばあいには、手動操縦装置をつかって宇宙船を降下させるためのものである。
計器板には、いくつかの指針および信号板、電気時計のほかに、地球儀がとりつけてある。地球儀は、軌道上の宇宙船の運動と同期回転をおこなうので、宇宙飛行士は、それによって宇宙船の刻々の通過位置を知ることができる。飛行士用制御盤には、操縦桿といくつかのスイッチがとりつけてあるが、これらのスイッチは、無線電話装置の動作を制御し、船室内の温度を調節し、また手動操縦装置や制動用エンジンを始動させるためにつかわれる。
宇宙船の建造にあたっては、飛行の安全の確保に、とくべつの注意がはらわれた。以前の数回にわたるソビエト衛星船の打ち上げは、衛星船の機器や装置類の動作が高い信頼度をもっていることを確証した。しかし、宇宙船「ウォストーク」号では、どんな突発事故の可能性をも排除し、それに搭乗した人間の飛行の安全を確保するために、いくつかの追加的な措置がとられた。仕上げにあたってこのような方向がとられたことは、人間が確信をもって宇宙空間に進出できるような宇宙船を建造するという基本的な課題に完全にこたえるものである。
手動操縦のばあいには、宇宙飛行士は、宇宙船の方向を決定するのに光学的な方向決定装置を利用する。これをつかえば、地球にたいする宇宙船の位置が測定できるのである。光学的な方向決定装置は、飛行士室ののぞき窓の一つにとりつけられている。それは、環状反射鏡2個、濾光(ろこう)器および格子入りガラス各1個からできている。
地平線から発せられる光線は、第1の反射鏡にあたり、ついでのぞき窓のガラスを通過して、第2の反射鏡にあたる。第2の反射鏡は、格子入りガラスをとおして光線を宇宙飛行士の目に投じる。鉛直線にたいして宇宙船が正しい方向を向いているときには、地平線の映像は、宇宙飛行士の視野のなかに円周状にあらわれる。
宇宙飛行士は、のぞき窓の中心部をとおして、自分の真下の地表部分をみる。宇宙船の縦軸の飛行方向にたいする位置は、方向決定装置の視野のなかを地表が「走る」状況を観察することで、測定される。
宇宙飛行士は、操縦用の機器をうごかして、地平線が方向決定装置のなかで同心円状にみえるように、また地表の「走る」方向が格子の方位基線と一致するように、宇宙船の姿勢をかえることができる。方向決定装置による観察が以上のようになっていれば、それは宇宙船が正しい方向に向けられていることを証明するものである。必要なばあいには、濾光器または格子によって方向決定装置の視野を遮断することもできる。
計器板にとりつけられた地球儀は、刻々の通過地点をしめすだけでなく、またそれによって各瞬間に制動用エンジンのスイッチを入れたばあいに宇宙船が降下する場所を、あらかじめ知ることができるようになっている。
最後に、宇宙船は、制動用エンジンが故障したばあいにも、宇宙船が大気のなかでうける自然的制動を利用して、地上に降下できるように設計されている。
食物、水、空気再生剤の貯えと、電源の容量は、約10昼夜の飛行にたりるようになっている。
宇宙船の設計においては、宇宙船が大気中で制動されてその表面が長時間加熱されるばあいでも、船室内の温度は一定限度以上にあがらないように、予防措置が講じられている。
出典:「人類最初の宇宙飛行 ソ連人間宇宙船の成功」(1961年5月、ソ連大使館広報課)
制作:2013年2月17日
●4月12日、
宇宙飛行の様子
(総論)
●4月13日、
ガガーリンのインタビュー
(「地球は青かった」の出典となった「イズベスチヤ」紙の全文)
●4月14日、
祝賀会の様子
●4月16日、
ソ連邦科学アカデミーでの記者会見
●幼少期から家族まで
27歳の履歴書
●宇宙船
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●宇宙飛行士の
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●NASAの誕生・
宇宙開発の歴史