● 青田八反(あおたはったん)
享保5(1720)年の京版西川祐信の著画『絵本美徒和草』に「婦人の産後、俗に青田八反と賞美す」とあり。青田八反に価(あたい)すべき快味ありとの義なり。
(注)産後は気持ちいいということです
●赤玉(あかだま)
売女などの言いし月経の意なり。月経には普通の異名多しといえども、この語にはいささか猥褻の傾向あるをもってここに入る。また「赤犬」とも言えり。
(注)月経を指す言葉です
●上り鯰(あがりなまず)
昔時、普通にては金銭の尽きたる遊蕩(ゆうとう)者を上り鯰と言えり。上りとは死の意なり。死せる鯰はヌメリ無し(光沢ある粘液が乾燥するを言う)。これを猥褻語に転用して、老女を上り捻と言えり。
(注)老女は気持ちよくないという意味です
●揚げ雲雀(あげひばり)
若衆遊びの一曲を言う。慶長3(1598)年満尾卓友の編述せる男色本『醜道秘伝』に、「雲雀(ひばり)が空にあがるがごとき仕様にて、……」とあり。
(注)男が男を買うことです
●朝参り(あさまいり)
昔の遊女(高等の花魁は除外とし)にして、青楼(女郎屋)の若い者(雇われ人)と肉体の関係なき者はなかりしと言う。いわゆる勤めのウサハラシもあり、あるいは脅迫に応諾せしもありしならん。
その若い者が客の立去りたる後、遊女の閏房(けいぼう)に押入るを「朝参り」または「朝込(あさごみ=前夜から続き早朝に遊興する)」と言えり。
(注)店番が女の子に手を出すことです
●吾妻形(あづまがた)
寡婦または奥女中が張形を使用せしがごとく、鰥夫(やもめ)が女陰の代りとして使用せし物を言う。薄き鼈甲(べっこう)にて造り、孔口に天鳶絨(ビロード)の切れを張れり。
使用法は蒲団を両端より捲(ま)きたる中央にこれを挿入するなりと言う。「陰戸形」または「革形」とも言えり。革にても造りしなり。刊本に見えたるは元禄 8(1695)年の『好色旅枕』にあるを最古とす。
(注)張形のことです
●天の逆鉾(あめのさかほこ)
伊弉諾尊(いざなぎのみこと)は天の逆鉾なり。伊弉冉尊(いざなみのみこと)は滄海原(あおうなはら)なり。鉾を降して海をかき探る。鉾の滴(したた)りを阿浮曇と号す。“父の精”なりなど言える神道俗学者の古説によりて、男陰を「天の逆鉾」または単に「逆鉾」と称し、なお逆鉾の一名によりて「天の瓊矛(ぬぼこ)」とも呼べり。
阿国歌舞妓(おくにかぶき)の両儀舞の歌にいわく「生れ来し天の逆鉾滴りて、人の命は揃となりけり」「海原や鉾の滴りなかりせば、この迷いある身とは生れじ」。
また川柳にいわく「逆鉾の滴りおぎゃアおぎゃアなり」。『燭夜文庫』陰嚢箴の文中にいわく「山谷の間に隠居す。前に神国伝来天の逆鉾を安置し、後に弘法大師の掘抜井戸をたくばえたり」。
(注)『日本書紀』の国産み神話では、巨大な棒でドロドロの海をかき混ぜたところ、棒から滴り落ちたものが最初の島(淡路島?)になったとされています。海が女、棒が男と言うことです
● 活きた御用の物(いきたごようのもの)
「御用の物」とは別項に記するがごとく張形を言う。そのいきたる御用の物とは男陰を言うなり。元禄9(1696)年の刊本『好色小柴垣』の張形屋主人が御殿女中を犯す条(くだり)にこの語あり。
(注)男性器のことです
●伊勢麻羅 筑紫都毘(いせまら つくしつび)
橘成季(たちばなのなりすえ)の『古今著聞集』に「麻羅は伊勢麻羅とて最上の名を得……都毘は筑紫都毘とて第一の物というなり」とあり。
当時(鎌倉時代)の俗諺なりしならんも、いかなる理由ありての戯れ言なるやは未詳。この俗諺につきて、山岡明阿弥の『逸著聞集』におかしき落語あり。
(注)最高の男性器ということです
●磯つび(いそつび)
海底または海岸の岩礁に付着せる軟体動物にして、俗に「磯巾着(いそぎんちゃく)」とも称する石牡丹(いしぼたん)を言う。その形状および括約筋を有すること女陰に似たるをもってなり。
近世は磯ボボと称せり。猩々狂斎の明治初(1868)年の手書には、房州保田にて「イソツビ」と唱うる由(よし)を記せり。されば今なお古語のまま呼べる地方もあらんか。
(注)女性器のことです
●一儀(いちぎ)
男女の交会を言う。古書には一儀を行う、一儀に及ぶなど記せり。また寛永(1624-44)版の『昨日は今日の物語』には「ある者、昼、一ぎをくわだてんと思い……」「ある夫婦者、一ぎをするたびに……」とあり。
(注)性行為のことです
●市松(いちまつ)
男根の異名なり。元禄11(1698)年の刊本『新色五巻書』にこの異名を記せり。市松は逸物(いちもつ)のモジリか、またはこの頃男陰を小僧と呼べるより、小僧の市松とも言いしものならんか。
(注)男性器のことです
●一深九浅の法(いっしんきゅうせんのほう)
寛永(1624-44)版の『人間楽事』に併載せる『黄素妙論』には、専らこの事を説き、その後の淫書また多くこれに倣(なら)えり。今ここにこの解釈を付することは憚(はばか)らざるを得ず。
要するに深浅法とは支那(中国)伝来の卑猥語と知るべし。
(注)浅く9回やったら、次は1度だけ深く、ということです
●糸口(いとぐち)
亀頭の下面、すなわち生理学書にいわゆる「繋帯(けいたい)」を言う。『好色旅枕』に「作蔵の糸口……」とあり。
(注)男性器の裏の部分です
●居どり(いどり)
古くは「まくばい」を、とり、とる、とらん、など言えり。「居」とは坐居(ざきょ)のままの事なり。
(注)「まくばい」とは「まぐわい(目合)」に同じで、性行為のことです
●鯔の臍(いなのへそ)
女子の子宮口を言う。その形状相似たるがゆえなり。天保(1830-44)の狂句にいわく「赤貝のぐっと奥にはいなの臍」。
(注)女性器のことです
●犬たわけ(いぬたわけ)
獣姦の1つにして、犬と交接するを言う。古くは「犬婚(いぬたわけ)」と書けり。『恋の栞』には「淫気(たわけ)」と書きて「諺草(ことぐさ)にいわく、色にふけりて恥も知らずなりゆくをたわけという」とあり。
上古の法制には斯(かか)る獣姦を禁止し、犯す者は厳罰に処せられたり。
(注)犬と性行為することです
●岩戸(いわと)
女陰を言う。天(あま)の岩戸に擬せしなり。「腰蓑(こしみの)の注連(しめ)張る海女(あま)の岩戸口」「床暗にして花娵(はなよめ)の岩戸口」など言える狂句も多し。
(注)女性器のことです
● 牛たわけ 馬たわけ(うしたわけ うまたわけ)
牛と通じ馬と通ずるを言う。この獣姦は変態心理学に、いわゆる錯倒色情の1つにして、ただに男子のみならず、狂的の女子にもこの醜行あり。前掲「犬たわけ」の項参照すべし。
(注)牛や馬と性行為することです
●うつほ
外皮を脱出することあたわざる包茎のはなはだしきを言う。矢を納むる靫(うつぼ)に擬して言うか、鱗なき鱓魚(せんぎょ=うみへび、うつぼ)に擬して言うかは不詳なれども、この語、渓斎英泉の著『枕文庫』にあり。
(注)ひどい包茎のことです
●裏門通行(うらもんつうこう)
鶏姦を言う。天保改革(1841-43)の際、かげま(蔭間、男色)茶屋を禁止せし事のチョボクレ文句に「裏門通用の芳町もならぬと、閉口閉口、坊主の種切れ……」とあり。貞享3(1686)年の刊本『鹿の巻筆』に、前に命門あり、先は行き止りかと問えば、裏門ありと答えしという落語あり。
また『狂歌やまと人物』に「色子(いろこ)をば愛でる和尚は暁に帰りてそっと這入(はい)る裏門」。川柳に「オヤこの廓(くるわ)に裏門はありんせん」。
(注)男性同士の肛門性交のことです
●越前(えちぜん)
包茎を言う。越前家(福井藩)の鎗の袋が包茎に似たりとて言い初(そ)めしなりと聞く。明和(1764-72)以後の川柳にこの語多く出ず。「一国はむくれてるのを笑うなり」「押さえたは越前なりと湯番いい」。
(注)包茎のことです
●得手吉(えてきち)
男陰を言うなり。「小僧」と唱え「悴(せがれ)」と称し「息子」と呼ぶがごとく、自由行動の意による擬人法の名称ならんか。また「得手物」とも言えり。
(注)男性器のことです
●えめる
女陰のことなり。口を開くを「えむ」と言う(柘榴(ざくろ)がえむ、腫物(はれもの)がえむの類。笑うを「えむ」と言うも同じ)。 「えめる」とは「えむる」物、すなわち女陰を言うなり。「角(つの)のふくれ」の項を見よ。
(注)女性器のことです
●猿猴坊(えんこうぼう)
女子の経水を言うなり。略して「えて」とも呼ぶ。猿の尻の赤きに比せしならん。安永(1772-81)頃の落語本『豆談話』にこの語出ず。烏亭焉馬が猥褒の戯作に「猿猴坊紅の月成」との号を署せしもこの意なり。
(注)生理のことです
● 扇箱(おうぎばこ)
閏中における男女のある姿態を言うなり。後記『絵本美徒和草』に出ず。俗にいう「横ざし」のことにて、ここには倭細(いさい)に説明することあたわざる語と知るべし。
(注)ある種の体位のことです
●鶯命丹(おうめいたん)
寛永(1624-44)版の『人間楽事』を始め、近世に至るまでの淫本中に閏中の秘薬として記するもの多し。その薬名には玉鎖丹、如意丹、西馬丹、人馬丹、陰陽丹、壮腎丹、鴛鴦丹(えんおうたん)、地黄丸、蠟丸、得春湯、遍宮春など数十あり。いずれも支那(中国)伝来の薬法にして、鶯命丹もまたその中の一薬名なり。
斯(か)くその薬名異なるといえども、要するに興奮性の刺激剤にして、長命丸、女悦丸に均(ひと)しきものなり。この淫薬使用の大害論は柳沢淇園の著『ひとりね』に詳(つまびら)かなり。
(注)性の秘薬のことです
●陸濡らし(おかぬらし)
俗に言う「無駄○○おやし」なり。『好色赤烏帽子』小野小町の事をいえる条に「あまたの人をおかぬらしにしたまい、すでに床入(とこいり)のだんになりては、上手こかしにしたまい、御湯具をまくらせたまわず……」とあり。
(注)早漏のことだと思われます
●御香箱(おこうばこ)
上流婦人の陰部を言うか。文政(1818-30)頃の写本『三陰論』に女陰の異名を列記せる中、「その尊きを御香箱という」とあり。
また『大笑座禅問答』にも「おこうばこ」の語あり。また『末摘花』に「彼岸(ひがん)参りにお香箱」の付句あり。
(注)高貴な女性の性器のことです
●御姿(おすがた)
男陰に擬したる張形のことなり。元禄(1688-1704)頃、御殿女中などの言いし語なり。
(注)張形のことです
●おそくずの絵
春画を言うなり。平安朝時代に行われたる古語なるべし。
『古今著聞集』に「(絵の)上手どものか(描)きて候(そうろ)うおそくつの絵なんどを御覧も候(そうら)え、その物の寸法は分にすぎて大きに書きて候うこと、いかで実にはさは候うべき」とあり。
これにつきて『嬉遊笑覧』に「“おそ”は“たわれ”(戯れ)たること。“くず”は屑なるべし。陽物を言うに似たり」とあり。
(注)春画のことです
●お茶漬
吉原の遊女が他客に惚れ、その狎妓(こうき=客のなじみの遊女)に秘して密かに通ずを言う。
本膳(ほんぜん)の後にアッサリお茶漬を饗すとの意ならんか。
(注)風俗嬢の横恋慕のことです
●お茶碗
女陰の無毛をいう。土器(かわらけ)と同一の語意なるべし。
(注)無毛のことです
●おにやけ
なまめかしき男を「にやけ」者と言うことは、若衆を「若気(わかげ)」と言いしより起これりとは諸書に記すところなれども、「おにやけ」と言えばその義、おおいに異なるがごとし。『昨日は今日の物語』に「おにやけのはりかた」「天下一おにやけ」「おにやけを御用にたて」などあり、肛門と解するのほかなし。
(注)肛門のことです
●お祭り
男女の交会を言う。「お祭りも渡り初(ぞ)めは橋の上」などいえる古き川柳多くあり。これによりて交会を単に「お渡り」とも称せり。淫行を政事(まつりごと)と言いしより転ぜし語か。
(注)性行為のことです
●おわせ
「男茎」と書きて「おわせ」と訓(よま)せり。「おわせ」には2説あり。1つは「男柱(おはしら)」の意なりとの説、1つは男陰が川魚のハゼに似たるより男のハゼなりとの説なり。略して「はせ」とも言い、後には「破前(はせ)」と書くこと別項に記せり。
『古語拾遺』に稲田の蝗(いなご)を攘(はら)う法あり。「以牛肉置溝ロ作男茎形」の男茎形に「おわせかた」と訓せり。
(注)男性器のことです
●終り初物(おわりはつもの)
産後の婦人を言う。狂句に「七十五日目、初物のような味」というもあり。
(注)産後の女性のことです
●御事紙(おんことがみ)
『色里三所世帯』に「延紙は吉野より」とあり。その吉野紙、または廉紙(れんし)など称する閨房(けいぼう)用の紙を言う。
(注)今でいうティッシュのことです