東京を洪水から守れ
ダム、遊水地、地下放水路…

地下神殿のコントロールセンター
地下神殿のコントロールセンター(2006年)


 1947年、関東地方を襲ったカスリーン台風では、利根川などが決壊し、東京で約9万戸、関東全体で約30万戸が浸水しました。
 その後、水害を防止すべく、さまざまな対策が行われてきました。具体的には、ダム、遊水地、地下放水路などです。

 2019年に東京を襲った台風19号では、試験湛水中だった八ッ場ダム(群馬県)がほぼ満水になりました。
 群馬県、栃木県、埼玉県、茨城県の4県にまたがる日本最大の遊水池「渡良瀬遊水地」は、総貯水量の95%にあたる1億6000万トンを貯めました。荒川第1調節池(埼玉県)にも総貯水量の9割に当たる3500万トンが流入。

工事中の八ッ場ダム
工事中の八ッ場ダム


 埼玉県春日部市には国土交通省の「首都圏外郭放水路」があり、近隣の中川や倉松川など5河川から水を流入させ、順次、江戸川に排出していきました。放水量は合計で1200万トン。

 さらに神田川や目黒川などの流域には28カ所の地下調節池があり、このうち21カ所が稼働、合計110万トンの水を貯めました。神奈川県には、遊水池機能を持った横浜国際総合競技場があり、ここも鶴見川から大量の水を受け入れました。
 このように、いつのまにか首都圏には、巨大な貯水施設が出来上がっていたのです。
 そこで、今回はこうした施設を片っ端から見に行くことにしました。

地下神殿
地下神殿


 埼玉県の国道16号。この何の変哲もない道路の地下50mに、バカでかいトンネルと地下神殿が眠っています。
 ここは『仮面ライダー555』『ウルトラQ』『ウルトラマンコスモス』『魔法戦隊マジレンジャー』……あとは『スカイハイ』『鉄人28号』など、有名ドラマや映画のロケ地として有名です。

 この神殿こそ、首都圏外郭放水路と呼ばれるものです。周囲は中川・綾瀬川流域といって、中小の河川が多い上、勾配が緩やかなので、大雨が来るたびに洪水が起きていました。

 そこで、河川の水を5本の立坑(直径30m、深さ60m)で取水し、それを直径10mの地下トンネル(6.3km)を経由させて江戸川に排水する、という壮大なプロジェクトが始まりました。1993年に工事が始まり、2006年に完成しました。総工費は約2300億円。
 
 放水路には幅78m、長さ177m、高さ18mの巨大な調圧水槽があります。この水槽を支えるのが、これまたでかい59本の柱。ここに貯まった水を、1万4000馬力のタービンで強制排出するのです。

庄和排水機場
庄和排水機場


 排水機場に入ってみると、ウルトラマンの司令室に使われたコントロール室が(冒頭の写真)。もちろん24時間体制で監視中です。

 地下には毎秒200トン(小学校のプールくらい)排水できる巨大ポンプがありました。タービンは航空機用を改良したもので、ここで水平回転を垂直回転に変えて排水します。建物の外観にある2本の突起は、煙突の役目をしているわけです。

首都圏外郭放水路
赤いポツポツは二酸化炭素消化器


 排水機場の裏には広大なグラウンドがあるんですが、この下が地下神殿です。
 中に入ると、いきなり空気がひんやりして、階段を下りていくと突然巨大柱が! すっげ〜〜〜デカイ!!
 首都圏外郭放水路は、1回の稼働でだいたい1000万円くらいかかるそうですが、洪水被害が大きく減少することを考えれば、なかなか立派な働き者です。

神田川・環状七号線地下調節池
神田川・環状七号線地下調節池

 
 続いて、東京都中野区・杉並区にある「神田川・環状七号線地下調節池」に行ってみます。こちらは、環状7号線の地下約50mにあり、直径12.5m、長さ2kmに及ぶ巨大トンネル。妙正寺川、善福寺川、神田川の3河川の水を受け入れます。


神田川・環状七号線地下調節池
中央監視操作盤


 エレベーターで地下へ降りてみると、18度前後のひんやりした空気に包まれます。
 トンネルの壁には「ヒ」「ロ」「ハ」「ウ」「欠」などの文字が書かれていますが、それぞれ「ひび割れ」「漏水」「コンクリート剥れ」「コンクリート浮き」「欠け」の意味となります。

神田川・環状七号線地下調節池
壁に書かれた文字


 さて、「首都圏外郭放水路」も「神田川・環状七号線地下調節池」も、なぜか地下50メートル付近に作られています。これは、大深度地下利用法によるものです。地下40mより深い場所で、公益性の高い事業を進める場合、土地所有者に対する補償が不要になりました。つまり、莫大な費用がかかる用地取得をせずに済むのです。東京の地下鉄大江戸線は、最大深度49メートルを走っていますが、もちろんこの法律の恩恵を受けています。

 用地取得をせずに済むので、コストだけでなく、地下鉄やトンネルが直線で結べるという利点もあります。工事コストがかかっても、結果的に経済効率がよくなるのです。

「首都圏外郭放水路」のシールドマシン
「首都圏外郭放水路」のシールドマシン(奥には江戸川)


 地下トンネルはシールドマシンで掘削していきます。「首都圏外郭放水路」の掘削で使われたシールドマシンは日立造船が製造したもので、外径12m。面盤にカッタービット(刃)が700個ついています。「神田川・環状七号線地下調節池」で使われた掘削機は三菱重工製で、直径13.44m。カッタービットは1300個で、長距離の掘削に耐えられる仕様でした。

 現在、「神田川・環状七号線地下調節池」(約4.5km)と「白子川地下調節池」(約3.2km)を連結する延長約5.4kmの「環状七号線地下広域調節池」が完成すれば、総延長13.2kmとなり、貯水量は約143万トンになります。

渡良瀬遊水地の貯水池機場
高床式になっている渡良瀬遊水地の貯水池機場


 地下トンネルの次は、渡良瀬遊水地に行ってみます。
 ここには第1〜第3調節池があり、ふだんは湿地や草原になっています。また、第1調節池にはハート型の谷中湖があり、下流の東京などで飲用水などに使われています。

渡良瀬遊水地の構造
渡良瀬遊水地の構造


 渡良瀬遊水地は、渡良瀬川、思川、巴波川の水を受け入れますが、通常は調節池の水を川に排出するため、水門が全開になっています。

 洪水になると、水門を閉じます。奥の渡良瀬川が増水すると、あふれた水は越流堤(A)を超えて調整池に入ります。さらに増水すると、越流堤(B)を超えて、谷中湖にまで流入する仕組みです。越流堤は、アスファルト舗装により破堤しにくくなっているのが特徴です。

渡良瀬遊水地の貯水池機場
貯水池機場の管理モニター


 2015年の豪雨では鬼怒川が決壊しましたが、これは、水が堤防を越えてあふれ、その水流によって堤防が削られる「越水破堤」が原因でした。破堤には堤防の土に水が染み込んで起きる「浸透破堤」などがありますが、7割以上が越水破堤だといわれます。

 そのため、かつて国交省は、アスファルト舗装した破堤しにくい堤防を全国に整備しようと考えました。1997年、『建設白書』に「越水に強いフロンティア堤防の整備を進める」と明記されたのです。ほかにアーマー・レービーや巻堤などさまざまな名称で呼ばれますが、すべて原理は同じです。

 フロンティア堤防は、信濃川や筑後川、那珂川で工事が始まりますが、ダム反対派が「ダム不要論」の根拠に使い始めたことで、国交省は普及に消極的になりました。結果、日本ではあまり見られないのですが、渡良瀬遊水地にはしっかりと存在しています。

フロンティア堤防
フロンティア堤防


 こうした遊水地は貯水能力が高いことから、国は既存の荒川第1調節池(埼玉県)に加え、第2〜4調節池を整備する計画です。

 都は2012年、中小河川の整備方針を改定し、これまで1時間雨量50ミリ対応で進めてきた基準を、75ミリに引き上げました。今後、豪雨が増えることを見越した対策で、貯水インフラは、いまも続々と工事が進んでいるのです。

渡良瀬遊水地のポンプ
渡良瀬遊水地のポンプ

東京の水害の歴史
日本の治水の歴史
なぜダムは必要とされるのか
越後平野の水害対策
渡良瀬遊水地の誕生

制作:2019年12月29日


<おまけ>

 かつて建設省が推進し、その後、民主党政権で消えた水害対策に、スーパー堤防があります。
 スーパー堤防(高規格堤防)は、決壊を防ぐため、市街地側に通常よりはるかに幅広く盛り土をした堤防のことです。堤防の高さの30倍まで盛り土していくとされましたが、予算がかかりすぎることから、計画は廃棄されました。渡良瀬遊水地の近くには、このスーパー堤防も残されています。

スーパー堤防
堤防上の建物は「道の駅きたかわべ」

スーパー堤防渡良瀬遊水地
「道の駅きたかわべ」から見た堤防

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