第8回訊問
問 前回まで述べたことのうち訂正する点はないか。
答 何もありません。
問 被告が品川館で書いた石田宛の遺書に「寝る前に今度締めるなら途中で手を離しては厭だよ、締められている時は苦しくないが、後の方が苦しいからと云って石田と眼を見合せて、ぢっといつまでも笑っていた、その時、石田が殺されてもいいと思って云ったのではないかしら」と書いてあるが、被告は、その実、石田を殺す時、左様に考えていたのか。
答 品川館に泊った頃は上擦っている時で、石田は死んだのだから、私も切(せ)つのう思って死にたいという自分の気持ちで書いたのです。
実際、石田は死にたくはないのだと考えていましたが、帰したくないばかりに殺してしまったのです。ただ、今でも全然石田が死にたくないのに殺してしまったのだと信じているだけ、石田が可愛想で、辛い思いがします。
せめて気休めに石田に「殺されてもいいか」と一言聴いて納得させればよかったと残念でありません。
予審判事は被告に対し、本件犯罪の嫌疑を受けたる原因を告知したる上、
問 これで予審の取調べを終るが、最後に弁解することはないか。
答 稲葉正武や黒川はなが証人として述べているうち、稲葉が私と極(ご)く昔関係があっただけだとか、私が富山時代、生活の補助を受けたことはないとか、大連から帰ったおかねさんと関係が出来たため家が揉めたことがないとか、私が草津へ行った時、金を送ったとか云う様なことは嘘で、この点に付て、前回まで述べたことに間違いありません。
また、稲葉や黒川が述べる様に、歌ちゃんから私が金を借りたことはありません。その他のことに就ては、今までに述べ尽しましたから何も申上げることはありません。
以上