放射性廃棄物はどこへ行くの?
六ヶ所村「貯蔵センター」を見学した

六カ所村
頭が痛い「原発のゴミ」問題


 イギリスの中央部、アイリッシュ海の真ん中にマン島という島があります。ここでは1907年から公道を走るバイクレースが行われていて、1961年、日本のホンダが初優勝し、世界中にホンダの名を知らしめたことで有名です。

 このマン島の対岸にセラフィールド(旧ウィンズケール)という世界有数の原子力施設があります。もともとは1947年に原爆用プルトニウムの生産工場として始まり、1956年には最初期の商用原発を稼働させています。
 翌年、この町で世界初の原子炉の重大事故が起き、大量の被曝者が発生しました。ところが事故は30年間公表されず、町の汚染は長らく隠蔽されてきました。
 
 この事故で、放射性物質に汚染された水が大量に海に垂れ流されました。この町では、その後も長らく汚染水を海に流しており、アイリッシュ海は世界でもっとも汚染された海域だと言われています。

ウィンズケールの排水パイプ
海まで続くウィンズケールの排水パイプ(1956年)


放射性廃棄物の海中投棄 放射性廃棄物の海中投棄
放射性廃棄物をドラム缶に詰めて海中投棄(撮影国不明、1956年)


 ロシアの南ウラル地方のマヤークにも、セラフィールドと同じくプルトニウム工場があります。やはり1957年に事故が起きて大規模な被曝が起きたんですが、ここでも事故は隠蔽され、そして長年にわたって大量の汚染水が川に流されました。

放射性廃棄物の貯水池
放射性廃棄物の貯水池。汚染度が下がったら川に放出(撮影国不明、1956年)


 海洋投棄は、1946年にアメリカが西海岸で実施して以来、各国は当然のように行ってきました。1975年にロンドン条約が発効し、1982年以降は基本的に行われていません。1993年以降は、低濃度汚染水以外の海洋投棄は全面禁止となっています。
 IAEAの資料によれば、1946年から1993年までの海洋投棄の国別比率で、イギリスは全体の41.24%、旧ソ連は46.11%と群を抜いています。ちなみにスイスが5.19%、アメリカが4.12%、ベルギーが2.49%、日本は0.02%です。

放射性廃棄物の土中埋設
低レベルの放射性廃棄物は地中に埋める(撮影国不明、1956年)


 やっかいな汚染物質の処理は、海洋投棄以外は、せいぜい土中に埋めるくらいしか対策はありませんでした。
 では、今現在はどうなっているのか? 国内の原発関連で出る廃棄物の行方を調べてみたところ、多くは青森県六カ所村で処理されていることがわかりました。そこで、さっそく現地に行ってみたよ!

低レベル放射性廃棄物埋設センター
低レベル放射性廃棄物埋設センター


 廃棄物にもいろいろありますが、全国の原発で使用した水、浄化フィルター、配管などは「低レベル放射性廃棄物」と呼ばれています。液体は蒸発による濃縮を行い、固形物は焼却処理し、残ったものはドラム缶に詰められ、セメントやモルタルで固形化されます。
 ドラム缶は、地面を掘り下げて1400万年前の硬い岩盤の上に作られた埋設場に埋めます。積み上げたドラム缶の隙間はモルタルで埋められ、さらに鉄筋コンクリートで覆います。2カ所で合計約8万㎡あり、40万本の埋設が可能。現在、年間2〜3万本埋設していますが、あと100年くらいはもつそうですよ。

高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター
高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター


 続いて、使用済み燃料の処理過程で出る「高レベル放射性廃棄物」はどうするのか。これは原子力燃料の最後の最後のゴミですが、こちらはドラム缶ではなく、ガラスと混ぜ合わせた「ガラス固化体」として保存されています。
 六カ所村では、ガラス固化自体は成功しているものの、継続的な運用の見込みが立っていないため、現在はイギリスとフランスに処理を依頼しています。
 このイギリスというのは、前述のセラフィールドのことですが……ともあれ、両国から戻されたガラス固化体は自然風で30年以上冷やし、その後で、最終処分場に持っていく予定です。

 ところが、日本では最終処分場の場所が決定していません。かつて高知県東洋町、青森県東通村、福島県楢葉町などで誘致の話が出ましたが、今ではすべて立ち消えになっています。このため、日本の原発政策は「トイレのないマンション」と揶揄されるわけですが……。
 しかし、現在、貯蔵建屋には年間800本ずつガラス固化体が増えているものの、最終的には3万2000本貯蔵できるため、40年間は安泰。要は、あと数十年以内に最終処分場を決めればいいので、問題が先送りされているのです。

高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター
高レベルの放射性廃棄物を貯蔵したフタ部分と、ガラス固化体を輸送する「キャスク」


 さて、六カ所村は原発のゴミ捨て場ではありません。ここの最大の目的は、使用済み燃料の再利用を図ることです。
 日本の原子力政策の基本は、「原子燃料サイクル」を構築し、純国産エネルギーの安定供給を目指すことにあります。具体的には、ウランを濃縮して原発の燃料を作り、使い終わった燃料を再処理して再び燃料に戻す、ということです。その過程でできた廃棄物を仮貯蔵するために、上記の廃棄物貯蔵センターがあるわけです。

 天然ウランの鉱石には、燃料となるウラン235がわずか0.7%程度しか含まれていませんが、これを3〜5%まで濃縮するのがウラン濃縮です。この技術こそ、核兵器を作る基本で、この技術が日本で確立されているからこそ、「日本だっていつでも原爆が作れる」という言説が流布することになるのです。逆に言えば、六カ所村の技術はトップレベルの国家機密に当たります。

 さて、原子炉から取り出された使用済み燃料は、一定期間、発電所内の貯蔵プールで保管され、その後、再処理のため、この地にやってきます。この使用済み燃料を保存する場所が「中間貯蔵施設」で、現在、青森県むつ市に建造中です。
 しかし、まだ中間貯蔵施設はないので、いまのところ、再処理工場内の燃料貯蔵プールで保管しています。
(福島に政府が作ろうとしている中間貯蔵施設は、福島第1原発の除染作業で出る土壌や廃棄物の保管施設なので、別の話)
 
 
燃料貯蔵プール
燃料貯蔵プール

燃料貯蔵プール
燃料貯蔵プールに貯蔵された使用済み燃料


 現在、再処理を直ちにやめ、すぐに全原発を廃絶しろという意見がありますが、もし再処理しない場合、使用済み核燃料はすべて元の原発に戻すという地元との覚書があるのです。ところが、多くの原発は燃料プールがすでに満杯に近づいているので、戻しようがないんですな。再処理をやめたら、使用済み核燃料があふれ出す以上、結局、六カ所村で再処理するしかないというのが実情です。あるいは、全部どこかに埋めちゃうか。しかし、その埋める場所は、日本にはまだどこにもないのです。このあたりにも、安易な脱原発ができない理由があるんですね。


制作:2012年8月8日

日本のエネルギー問題を考える本サイトの記事

 ●東海原発の誕生
 ●福島第1原発の誕生
 ●原子力船「サバンナ号」の誕生

 ●池島炭鉱から見る戦後「石炭政策」60年史
 ●三池炭鉱/海底炭鉱の開発史
 ●幻の大夕張炭鉱
 ●軍艦島に行ってみた
 ●石炭のゴミ捨て場/筑豊のボタ山

 ●新潟エネルギー街道/石油・原油採掘の始まり
 ●燃料電池で地球温暖化防止
 ●揚水発電所から見るスマートグリッドの未来

 ●電気が町にやってきた/電気の歴史
 ●東京電力の誕生
 ●東京ガスの誕生


<おまけ>
 文科省は、毎年、全国の「放射性廃棄物管理状況」を公開しています。その資料によれば、東京近郊だけで、東工大にドラム缶で54本、東大に16本、川崎の旭化成に299本、袖ヶ浦の住友化学に1763本…の放射性廃棄物が保存されていることがわかります(2010年度)。なかでも多いのが、大宮近くの三菱マテリアル。ここにはニュークリア・デベロップメントのものと合わせ、実に4万本もの汚染物質が保管されています。
 意外にあちこちに廃棄物があるんですが、「いったいこれどうするんだよ」という問いかけをしても、「どうしようもないよね」というのが結論なのですな。
三菱マテリアル
三菱マテリアルの放射性廃棄物保存場
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