せいしごえ〔制し声〕大名の行列に際し一般通行人に注意をあたえる掛声。「下にいろ下にいろ」「下にィ下に」など。せいぞうば〔製造場〕工場のこと。
「夜のことなれば製造場も見えず橋場今戸の人家鐘ケ淵小松川の樹影(じゅえい)唯(ただ)蒼茫(そうぼう)として月光にかすみ渡りたる河上の光景。」(永井荷風「大窪だより」)せいふとう〔情婦湯〕清心丹と共に中央区日本橋元大阪町(八重洲口の東)高木与兵衛が発売した血の道(婦人病)の薬。せいようい〔西洋医〕漢方医に対して、いう。せいようかざり〔西洋飾り〕祝祭日につくるアーチなど。
「山轢(だし)や踊り屋台、又大通りの西洋飾り、」(河竹黙阿弥「朝日影三組杯觴」(あさひかげみつぐみのさかづき))せいようげんぷく〔西洋元服〕眉もそらず鉄漿(おはぐろ)も付けず大丸髷にゆうこと。→「はんげんぷく」せいようしょうほう〔西洋商法〕親兄弟でも利害はハッキリとしている商取引。→「しょうほう」せいようづくり〔西洋造〕西洋館。洋館。せいようどこ〔西洋床〕斬髪専門の床屋。今日の理髪店。ちょんまげをゆう髪結床(かみゆいどこ)に対していった。
「明治二年に銀座四丁目東仲通りの中央の処に開業せる松村庄太郎の床なり、庄太郎は、横浜の西洋人に斬髪法を習い来りて開店せしものにて当時第一着に来りて断髪せしは、鳶頭の亀と市と笊勝(ざるかつ)なりとの説あり。」(石井研堂「明治事物起原」)せいようばな〔西洋花〕ダリヤ、コスモス、サルビア、ベコニア、グラジオラスその他、今日ではありふれた西洋種の花をも、そういっていた。せいようひばち〔西洋火鉢〕ストーヴ。せきぞろ〔節季候〕年末、忙しい町々へやかましく三味線をひいて口早に歌って金をもらい歩く女。特殊部落の出身が多かった。
節季候せきてい〔席亭〕寄席の亭主の略。寄席のことを、席亭というのはまちがっている。ただ「席」というと、関西では寄席のことになるが、今日では東京でも席といい、逆に関西で寄席というようになっている。せきのやま〔関の山〕せいぜい。せめてもの絶頂という意味。やっとこさ。「あすこへ行く位が関の山だ」せぎょう〔施行〕僧侶貧民などにものをやって功徳(くどく)をすること。布施の行(ぎょう)。ぜげん〔女衒〕遊女専門の紹介、あっせん人。例外はあったが、概して口先が達者で相手の弱身につけこみ、不当な安値で身売りを強行したり、契約金のさやを抜いたりした非人道的な人間がほとんどであった。
「今世に人の口入するを『けいあん』といひ、遊女の口入するを『ぜげん』といひ、これらのことを媒するをすべて肝煎と云。」(山崎美成「世事百談」)せけんしなれない〔世間師馴れない〕世わたりになれていない。世なれない。せっき〔節季〕歳末。年がおしつまったことをいう。「怠け者の節季働き」せっくせん〔節句銭〕1
年に5
回あったいわゆる五節句(正月7
日=人日(じんじつ)、3
月3
日=上巳(じょうし)、5
月5
日=端午(たんご)、7
月7
日=七夕、9
月9
日=重陽(ちょうよう))に長屋中がつきあいにだす銭。せっくまえ〔節句前〕五節句の前、遊女は節句のたびに美しい衣裳をこしらえたり、つかっている人たちへ祝儀をやったり、金がかかり、いい客のないものは鞍替(くらがえ、さらに借金して他の廓へ行く)したり、自殺したりした。ぜっけ〔絶家〕家名が絶えること。断絶。せつせつ〔節々〕ちょいちょい。「節々うかがいますから」せった〔雪駄〕近時すたれたが、千利休の創案とされ、竹の皮の草履(ぞうり)の裏に牛皮を張り、多く後部の裏に金物が打ってある。
明治30
年代の俗曲さのさ節には「それだから、僕が注告(ちゅうこく)したではないか、芸者の誠と雪駄の裏の皮、金のある内アちゃらちゃらと金がなくなりや切れたがる」。
雪駄の看板せっちんのじょうまえ〔雪隠の錠前〕昔はノックで答えないで、便所へ入っている人が「エヘン」と咳(せき)をした、それをいう。せっぱつまりになる〔切羽詰りに成る〕ギリギリのところに追いつめられた心持ちになる。そののちの時代の人々は、「切羽詰る」といった。ぜっぴ〔是非〕ぜひ。通人のことば。せびら〔背びら〕背中。そびら。
「デップリ肥って居る身体を、肩口から背びらへ掛けて斬付ける。」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)せみおもて〔蟬表〕下駄の籐表(とうおもて)で、蟬の羽に似ているゆえにいう。せりごふく〔糶呉服〕諸家へ店員をつかわし、品物を販売している呉服店。せわりばおり〔背割羽織〕背縫(せぬい)の中央以下を裂けたようにしたもの。乗馬、旅行用に便利。ぶっさきばおり。せんおくさま〔先奥様〕前の奥様ーー現在の夫人の母で故人になったをいう。「先殿様(せんとのさま)」の対としてよかろう。せんがじまいり〔千ケ寺詣り〕方々の寺を詣って歩く一種の乞食。せんきすじ〔疝気筋〕「他人の疝気を頭痛に病む」のたとえから、まちがった方面を気にすること。せんこくしょうち〔先刻承知〕いわないでもよく分かっていること。衆知(しゅうち)のこと。せんころ〔先頃〕先ごろ。いつぞや。せんざいもの〔前栽物〕野菜。前栽は庭さき。せんじゅかんのん〔千手観音〕虱(しらみ)のこと。観音さま。せんしゅじん〔先主人〕昔の主人。ぜんぜん〔前々〕以前。かって。ズッと前に。せんぜんの〔先前の〕かっての。昔の。せんたくばなし〔洗濯話〕同じ話を何べんもすること。せんだんまき〔千段巻〕槍の柄(え)の刃と接する部分を麻苧で巻いてある、そこをいう。せんとう〔煎湯〕茶湯(ちゃとう)に同じく、茶を煎じた湯。牢内で囚人が飲むのであるが、ツル(金)さえあれば鰻飯すら食べ得たのだから煎茶などは容易に入手できたろう。→「つる」せんばい
三杯酢(さんばいず)の江戸なまり。また、塩物の魚を汁で煮だしたのを船場煮(せんばに)ともいい、古川柳に「から鮭をせんば煮にする照手姫(てるてひめ)」。
「お前が鮭のせんばいでお酒を飲みてえものだといふから、」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)ぜんび〔全尾〕結末。完結。せんぴ〔先非〕昔の悪事。昔のよからぬおこない。「先非を悔いています」ぜんぴょう〔前表〕前(まえ)じらせ。前兆。せんべいにかなづち〔煎餅に金槌〕何の苦もなくこわされること。楽にモノを解決することを、「鬼が煎餅を噛むようだ」といった。