きあい

〔気合〕心もち。心意気。
きいきい
病気、気分の児童語。きいき。

きいたふう
〔利いた風〕気のきいたような顔をすること。生意気。「きいた風な口を利きやァがるな」
きうち
〔気打〕心配してクヨクヨしていること。気鬱(きうつ)。
きおい
〔俠〕勇み肌。鳶などをいう。
きおち
〔気落〕精神的に打撃を受けた状態。ガッカリすること。ガックリと参ること。
きかい
〔器械〕道具。器。
きがちる
〔気が散る〕気が晴れる。→「きさんじ」
きがつく
〔気がつく〕元気が出る。
きがわるい
〔気が悪い〕妙な気になる。
「やあ、膳の上のは鰹の刺身か、皮作りは気がわりいな。」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」富吉町新三内の場)
「年の頃は二十二三、女盛りの御守殿風(ごしゅでんふう)、まだ男の味は知るめえ。どんな奴が女房にするか、気のわりい話しだなあ。」(同「網模様灯寵菊桐(あみもようとうろのきくきり)ーー小猿七之助」永代橋の場)

ききうで
〔利腕〕右の腕。右の方が何にでもよくきいてつかえるゆえにいう。
きぐすりや
〔薬種屋〕今日なら、ただ薬屋という。
きくとうだい
〔菊灯台〕台座を菊花の形にした灯明台で、朱塗、黒塗、白木や真鍮がある。
きこえあい
〔聞え合〕おたがいにすぐきこえること(例えば長屋の壁一つで)。
きごみ
〔著込〕上衣(うわぎ)の下に着る鎖帷子(くさりかたびら)の略。→「くさりかたびら」
ぎごわ
〔擬強〕からだにあわない、ゴワゴワしたきものを着ていること。
きさく
〔気さく〕気のおけない態度。気軽なこと。「さくい人」などという。
きさん
〔帰参〕主君へ再び呼び返されてつかえること。家宝紛失の責めで浪々となった主人公が辛苦の末に悪人を成敗し家宝を入手して「帰参がかなう」という例は多い。→「めしかえす」
きさんじ
〔気散じ〕気晴らし。気保養。鬱を散ずること。気苦労のないこと。のんきな状態。「気散じもの」などという。
「問はれて何のなにがしと、名乗るやうな町人でもごぜやせん。しかし生れは東路(あづまじ)に、身は住みなれし隅田川、流れ渡りの気散じは、江戸で噂の花川戸。」(桜田治助「鈴ケ森」)

きしょう
〔起請〕起請文の略。
きしょうな
〔気象な〕勇気凛々たる。気象の凛然(りんぜん)たる。
「仙太郎の身がまへがいかにも気象な奴でございますから、心のうちにてこいつ中々尋常(ただ)の奴ではない。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)

きしょうの
〔気象の〕気象の烈しい。強い性格の。気象な。
きしょうもん
〔起請文〕神仏にちかっていつわりのないことを記した文書。遊女が夫婦約束の起請文には、「天にあっては比翼(ひよく)の鳥、地にあっては連理の枝」などの美文がかかれた。誓紙。誓文。
きしょく
〔気色〕気分。心もち。今日では大阪弁にのこっている。「気色の悪い男やな」など。
きずい
〔気随〕わがままのこと。
きずもつあし
〔疵持足〕脛(すね)に疵持つと同じ。秘密にしている弱点をもいう。
きせん
〔木銭〕木銭宿(きせんやど)の略。
きぜん
〔気前〕心持ち。腹の虫のいどころ。
「わっしが悪かった、ツイいいそくなったのだが、お前も気ぜんの悪いとこ。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)

きせんやど
〔木銭宿〕木賃宿。安い宿屋。後に「もくちんホテル」などともいう。
きたい
〔希代〕奇体。奇妙。不思議。「希代なものを見るものぢやなあ。」(河竹黙阿弥「浪底親睦会」(なみのそこしんぼくかい))
きたきりすずめ
〔着た切り雀〕一枚しかないきものをしじゅう着ていること。「舌切り雀」のしゃれ。
きたけ
〔木竹〕木石(ぼくせき)。非情。感情のない人。
きたむきてんじん
〔北向天神〕へんくつな人。天神のしゃれで、変人さまともいう。
きつい
強い。

きっさきぜりあい
〔切先ぜり合〕剣の尖(さき)と尖とを双方が打ち合わせ、折り込む気合をはかっている状態。
きっそう
〔吉左右〕よいしらせ。喜ばしいたより。「よき吉左右を相待ちおるぞよ」などと重ねる場合もある。
きっそう
血相(けっそう)の江戸なまり。

きったて
〔切立〕きりたて。こしらえたて(衣類の場合の)。「きっ立てのふんどし」
きつねがおちる
〔狐が落ちる〕狐つき(狐がついたと信じる一種の神経病)が直る。古川柳に「狐つき落ちれば元の無筆なり」「狐つき鼠とまでは望みかね」。大正期の川柳には「木なし幕狐の落ちた気味があり」。
きっぱらい
〔切払い〕無銭遊興。
きっぷ
〔気っ風〕気前。心もち、性質。「いい気っ風だ」
きづま
〔気褄〕心もち。「きげんきづま」などという。
きど
〔木戸〕江戸の町々には木戸があり、非常の捕物の場合などこの木戸をしめた。広重の画中にも木戸の図は見られる。浄瑠璃「伊達娘恋緋慶子(だてむすめこいのひがのこ)ーー八百屋お七」火の見櫓の段およびそのパロディである「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」本郷火の見櫓の場では、この木戸の機能をよく活用してある。
きどばん
〔木戸番〕商売女がムダにお客を待ちあかす場合をいう。「今夜もまた木戸番か。」(樋口一葉「にごりえ」)
きどる
〔木取る〕材木をひき、製作の用材に適すよう見積って用意する。製材する。
きなきな
くよくよ。

きのえねのなないろがし
〔甲子の七色菓子〕十干(じっかん)の「きのえ」と十二支の「ね」とに当る年月日には、昔、大黒天を祭ったが、おこし、落雁など打物(うちもの、みじん粉に砂糖をまぜ、型に入れて打った乾菓子)の菓子で七いろにそれぞれ着色したものをそなえた。この風習、20余年前までは残存したーーと、五世田辺南竜談。
きふ
〔帰府〕江戸御府内(ごふない)へかえること。
きぶい
〔豪い〕割のいい。大そう儲かる。「きぶい仕事だ」という風につかう。
きふく
〔帰伏〕心服(しんぷく)。尊敬。
「お医者儒者売卜者(うらないしゃ)なんぞといふものは、少し頭に白髪がはえてなければ向うで帰伏しません。」(三遊亭円朝「鏡ケ池操松影(かがみがいけみさおのまつかげ)ーー江島屋怪談」)

きぶっせい
〔気烟霧〕煙ったく。気兼(きがね)。
「何となく江沼の様子が気烟霧に見えるから、」(三遊亭円朝「黄薔薇(こうしょうび)」)

きまくら
〔木枕〕木賃宿で貸した木で作った枕。手拭をあててねた。講釈場(こうしゃくば)ーー講談の寄席でも貸した。ねながら講談をきいたのである。
きまずな
〔気まずな〕気まずい。
きまり
〔定り〕おきまりのぞんざいないい方。おきまり文句。「へん、きまりをいうぜ」といえば、だれにでも使う嬉しがらせを、特別めかしていったって真(ま)に受けないよ、という意味になる。この辺、都会人の潔癖と含羞(はにかみ)がよくあらわれている。
きみあい
〔気味合〕その場の空気。「只ならざる気味合ネ。」(梅亭金鵞(ばいていきんが)「滑稽立志編」)
きみ・ぼく
〔君・僕〕江戸時代にも「君」「僕」のよび方はあった。三遊亭円朝の「牡丹灯籠」の萩原新三郎と医師山本志丈(しじょう)の会話にも「君」「僕」があるし、岡本綺堂「温泉雑記」中の旗本2人も「君」「僕」を使用している。もって文明開化以前の、下町人以外の用語であったことを知るべきである。
きめる
くらわせる。牢屋で新入(新しく入って来た囚人)をなぐる板を、きめ板という。

きもじ
〔気もじ〕→「もじ」
きやぁぱぁ
キャーキャー。「何をする。てめえがきやアぱアいやア、よん所なくたたっ斬るぞ。」(三遊亭円朝「敵討札所霊験」(かたきうちふだしょのれいけん))

きやい
気合(きあい)のなまり。「きやいがいい」

きやきや
①ひやひやと心配する様子、②きりきりとさしこんでくる痛み、③いても立ってもいられなくなる刺激的な状態。芸人の人気が急テンポで出てくるときにも、「きやきやと来た」などといった。

きゃくしゅう
〔客衆〕お客。衆は「子ども衆」「女郎衆」「兄弟衆」「芸者衆」の「衆」。
きやすめ
〔気休め〕一時だけ相手が安心するように口から出まかせをいうこと。「一どの気休め二どのうそ、三どのよもやにひかされて」の俗曲がある。
ギヤマンどくり
〔玻璃徳利〕ガラス製の酒瓶。
きやみ
〔気病み〕くよくよ思いなやむこと。流行語でいえば「一種のノイローゼ」といったところ。
きゅう
〔給〕月給の略。
きゅうきんをうつ
〔給金を打つ〕給金を手渡しする。芝居用語。
きゅうこ
〔舅姑〕しゅうと、しゅうとめ。
きゅうしゅう
〔旧習〕時代おくれ。古臭い。不開化。
きゅうち
〔旧地〕昔からいた土地。
きゅうとう
〔旧冬〕昨年末が正しいが、年礼、年始の用語で、単に昨年という意味にもちいられる。
きゅうばくさま
〔旧幕様〕旧幕府(徳川)への敬称。
きゅうへいあたま
〔旧弊頭〕ちょん髷。
きゅうめい
〔窮命〕苦しいおもいをさせること。「少し窮命をさせてやろう」
きゅうりがく
〔窮理学〕物事の理屈をきわめる学問。
きゅうりきる
〔久離切る〕永久に縁を切ってその家から追う。人別(にんべつ)帳からのぞく。戸籍を抜く。「お前のようなやつは、きょうこう限り久離切って勘当だ」
きょうかく
〔胸膈〕胸のつかえ。
「アノきょうかくの間に、何やら和(やは)らかなくくり枕のやうなものが二ッ下って、先に小さな把手(とって)のやうなものがあったが、ありゃなんぢゃ。」(津打半十郎他「鳴神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)」)

きょうげべつでん
〔教外別伝〕その道の普通のおしえ以外の、特別な方法。本来は仏教語。お秘伝(ひでん)。
きょうこう
〔向後〕今後。この後。「向後来てはいけない」「向後かぎりいたしません」
ぎょうさん
〔仰山〕大袈裟。「え〜、何を、仰山な、静(しずか)にしろえ。」(三遊亭円朝「名人長二」)
ぎょうじ
〔行事〕世話役。「長屋の行事は誰々がやっている」という風につかった。それが1カ月交替のものであるなら「月行事」「月番」というように。
きょうじや
〔経師屋〕女をやたらにくどく人。経師屋は張るというしゃれ。
きょうしんかい
〔共進会〕殖産、興業の改良進歩をはかるがために、ひろく産物、製品を集め、公衆に観覧させ、その優劣を批評してきめる会。その組織は、品評会と博覧会を折衷したもので、明治12915日、横浜に製茶共進会をひらいたのがはじまり。
きょうだいしゅう
〔兄弟衆〕御兄弟。この場合の衆は複数ではなく、敬語である。大阪弁でお子さんというところを、子たちというにひとしい。
ぎょうてい
〔業体〕家業。「かやうな業体ゆゑ、知りつつ存外(ぞんがい)私もごぶさたをいたしました。」(三遊亭円朝「緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)ーーまたかのお関」)
ぎょく
〔玉〕遊女をあげる代金。狂せる三代目蝶花楼馬楽の句に「夜の雪せめて玉丈けとどけ度い」。
ぎょこん
〔御懇〕御親切なお言葉。
きょじ
〔凶事〕災難。今の人は「きょうじ」と発音。
ぎょしん
〔御寝〕おやすみ。お眠り。御就寝。「ぎょし」とも発音する。→「げし」
きらをはる
〔綺羅を張る〕着かざる。見得を張る。いつも体裁をよくしているのを「常綺羅を張る」。
きり
〔切〕演劇の最終番組。大切。「切幕」
ぎりあい
〔義理合〕義理。「空合」「意味合」「色合」などの「合」と同じ。
きりぎりすをきめる
〔蟋蟀をきめる〕遊女が、昔、張店(はりみせ)といって店頭に盛装して並び、客をよんでいたころ、その店の格子につかまって客を待つ姿を、虫籠のなかのきりぎりすにたとえた。
「店の格子に蟋蟀をきめたり為(し)て居た癖に、」(広津柳浪(ひろつりゅうろう)「今戸心中」)

きりざんしょ
〔切山椒〕山椒入りの餅を平らにのばし、25分位の長さに小口から細く切った紅白茶いろの菓子。
きりたとう
〔裁片畳〕小さいきれを入れる厚紙を折りたたんだもの。「宮は故(わざ)と打背(うちそむ)きて、裁片畳の内を撈(かきさが)せり。」(尾崎紅葉「金色夜叉」)
きりだめ
〔切溜〕野菜などの切ったものを入れておくフタのある箱で、春慶塗が多い。
ぎりづく
〔義理づく〕義理のためのなりゆきといった意味。→「づく」
きりどう
〔桐胴〕胴が桐で造られた火鉢。
きりぬきえ
〔切抜き絵〕物の形を切り抜いて取るようにかいてある絵。
きりみせ
〔切店〕ごく下等な遊女屋。
きりもち
〔切餅〕25両の紙包み。正月の切ったお餅(かちん)に似ているゆえにいう。
きりょう
〔器量〕才能。器。人物のスケール。「あの男にはそこまでの器量はない」「なかなかの器量人だな」
きればなし
〔切れ話〕離縁ばなし。別ればなし。
きをうつ
〔気を打つ〕おどろく。
きをおく
〔気を置く〕気をつかう。「気の置けない人ばかりだから」
きをつめる
〔気を詰める〕気がねする。気詰り。
きん○
〔近〕近喜近五(きんききんぐ、江戸訛りで「ご」を「ぐ」という呼び方の商店が沢山あった。近江屋喜兵衛とか近江屋五助とか、すべて近江屋なにがしの略である。近時、東京へ進出した大阪の商店は、例えば田中宗一という主人だと、最後の一を略し、田中宗商店という風によぶ。それに似ている。
きんえん
〔金円〕金(かね)のこと。
ぎんかん
〔銀笄〕銀のかんざし。
きんぎょくとう
〔金玉糖〕寒天に砂糖をまぜて作った上にザラメ糖をまぶした夏季の菓子。
きんごう
〔近郷〕→「きんざい」
きんこまおびつきのたすかり
〔金牒帯附きの助場〕いい後援者がついての上での助けてもらう花会(演芸会その他をやってその利益をもらう会)。
きんざい
〔近在〕都下や周辺をいう。「近在者(もの)」とは、その土地の人々。→「ざいご
もの」
きんしずるめ
〔錦糸鯣〕細かくきぎんだ鯣。金糸鯣。
きんじゅうろう
〔金十郎〕金十、きん。寄席界のテクニックで馬鹿という意味。語源は禽獣(きんじゅう)に等しいから来ていて、それを人間らしく「郎」の字をつけたのである。
きんじょしゅうとめ
〔近所姑〕近所の人が姑のようにうるさいこと。
きんたまひばち
〔睾丸火鉢〕股間へ入れてあたるための火鉢。そうした行動をもいう。
きんちょう
〔金打〕武士が違約せぬしるしに、両刀の刃または鍔(つば)などを打ち合わせたこと。
きんちょうまぢかい
〔禁朝間近い〕天皇陛下のおいでの所に近い。お膝元。仮名垣魯文「西洋道中膝栗毛」に「禁朝間近へ神田の八丁堀でお茶の水を産湯にあびて」。神田の八丁堀は、もちろん今日の中央区京橋のではなく、神田今川橋界隈(今川橋は神田駅と本石町の中間)だった。
ぎんながし
〔銀流し〕銀メッキから転じて、実力がなくて表面だけかざる人。
きんぱく
〔金箔〕実際よりよくみせかけていること。金箔付(つき)というと、決定版という意味になる。
きんぴか
豪華な装(なり)をすること。「きんぴかづくめ」

ぎんみ
〔吟味〕調べ。探査。
きんりさま
〔禁裏様〕天皇陛下のこと。なまって、「きんりんさま」という。禁裏は皇居のこと。