ちいちい虫のこと。児童語。チーハ〔字花・一八〕筋紙(すじがみ)に36
の言葉を記してくばり、胴元の伏せた言葉をあてると、かけた金の30
倍がもらえ、当らないと胴元にとられる。中国の下等社会で行われ、明治年間、わが国の中国居留地から一般にはやり、大正初年までつづいた。36
の言葉とは合海(ごうかい)がはまぐりで、安土(あんし)が狐といった式のもの。「うんそう」という配達人が、このクイズの紙を毎朝配達して来るバクチ。チェスト演説のクライマックスヘ、聴衆がかける声。Chesttone voice
(チェスト・トーン・ボイス)の略。ちかげどんす〔千蔭緞子〕天明のころの歌人であり賀茂真淵門下の国学者であり八丁堀の与力であり、かつ最高度に洗練された通人でもあった加藤千蔭が、自筆の「蓄薫鶯(ちくくんおう)」の歌を織り出したどんす。吉原や深川の芸者に帯として与えていたという。ちかづき〔近づき〕知己。知り合い。「まだ知己(ちかづき)にゃあならねえが、顔は覚えの名うての吉三。」(河竹黙阿弥「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」大川端庚申塚の場)ちからもち〔力餅〕一種の捩切(ねじきり)餅。たべると力が強くなるという。「小麦粉を鉄板で焼いて赤蜜をかけたうどん粉餅、油くさいのを我慢して、」(染谷忠利「食道楽三日行脚」)ちからもちのいし〔力持の石〕力くらべをして持ち上げるための石。神社境内に何貫匁ときざんだ丸い石が、今日も置かれている。明治の中頃までは各町内の力持の番附までできた。現代ならボディ・ビル。「是でも能登の七尾在で五十貫目の石をさした、人に負けねえこの次六。」(河竹新七「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」八ツ橋部屋の場)ちぎしょう〔血起請〕血でかいた起請文。→「きしょうもん」ちちくりあう〔乳繰り合う〕いい仲になる。ちどりがけ〔千鳥掛〕千鳥の飛び方のように、糸を交互に斜めに交叉させていくのを「千鳥かがり」というが、そのように糸をかけていくこと。また、単に斜に交叉する状態をもいう。「からかさの骨はばらばら紙や破れても離れ離れまいぞえ千鳥がけ」という意味深長な小唄もある。ちのみ〔乳呑〕乳呑子(ちのみご)。ちびっちょ小男のこと。ちびる少しずつ出すこと。チビチビ出すこと。だしおしむように金をつかう場合にもいうし、放尿のときにもつかう。ちみちをあげる〔血道をあげる〕夢中になる。ちみどり〔血みどり〕血みどろ。血だらけ。ちみどろちんがい血まぶれ。血みどろ血がい。ちゃう〔茶宇〕茶宇縞(ちゃうしま)の略。印度Chaul
という地の産でポルトガル人のもたらした舶来(はくらい)の薄琥珀織(うすこはくおり)の一種。いい絹糸をつかって織ったのを本練(ほんねり)という。わが国では袴地(はかまじ)にする。天和年間には、京都の織物師も製するに至った。チャキチャキ生粋(きっすい)。「おぎやアと生れると水道(すいど)の水で、産湯(うぶゆ)を使った江戸っ子のチャキチャキが、」(竹柴其水「会津産明治組重(あいづさんめいじのくみじゅう)」)ちゃじん〔茶人〕変り者。粋狂な人。ちゃたばこぼん〔茶煙草盆〕お茶と煙草盆。お客をもてなす必需品で「茶たばこ盆のもてなしで、下へもおかぬ……
」と初代木村重友の浪曲「河内山ーー松江屋敷」にはある。ちゃちゃくる〔茶々繰る〕ごまかす。ちゃちゃふうちゃめちゃめちゃ。ただ何ということなしに。元も子もなしに。フワフワと。だらしなく。「君からもらった三百円の金はちゃちゃふうちゃにつかひ果して仕方なく、」(三遊亭円朝「英国孝子之伝」)ちゃづけや〔茶漬屋〕簡易な飲食店。ちゃにする〔茶にする〕バカにすること。ちゃのこ〔茶の子〕何でもなくできること。「お茶の子サイサイ」ちゃばん〔茶番〕茶番狂言の略。その場にありあうものを材料として、仕方(しかた)また手振りで、地口のようなおかしいことを演じる道化(どうけ)狂言。さらに大がかりで歌舞伎を滑稽化し、衣裳道具鳴物で演じ、奇抜な落(おち)を付けるものもある。前者は、口上茶番、後者は、立茶番(たちちゃばん)。江戸末から明治へ通人や戯作者が集まっては上演した。幇間や太神楽やかっぽれの人々も演じ、のちには本職にちかい茶番師も生れ、深川にはその上手が多く出て、祭礼の余興などを賑わした。「昔の戯作者は茶番狂言の道楽を競ったもの、中にも松亭金水(しょうていきんすい)が不忍の弁天の後(今の観月橋の傍)に住んで居た時、梅亭金鵞(ばいていきんが)、万亭応賀(まんていおうが)、竹葉舎金瓶(ちくようしゃきんペい)、杉亭金升(さんていきんしょう)、金浄(きんじょう)、梅の本鶯斎(うめのもとおうさい)、(金鵞の弟、人情本の画工)鶴亭秀我(かくていしゅうが)、外二三の作者や筆工などが毎日集まって騒いで居るので自然に八笑人和合人(わごうじん)の様な事になる。毎月仲町道りの某家を借りて茶番を催し、口上茶番、立茶番、三題噺の智慧くらべ芸くらべを演るのを楽しみにして居た。」(鶯亭金升「江戸ツ子のチヨン髷」)
茶番ちゃぶちゃぶ食事のこと。食堂をちゃぶやといったのが、のちに売女をおくチャブ屋に変った。ちゃめしや〔茶飯屋〕夜更けの路上に荷をかついで茶飯を売り歩く者をいう。6
代目林家正蔵(先々代)の「饅頭嫌い」には、深夜、侍が茶飯屋のお櫃(ひつ)を斬って辺りを飯だらけにした。これがほんとの茶飯(試し)斬りだというのがあり、茶飯屋が江戸市井(しせい)の夜の風景だったことが、よくうなずかれた。幕末の浮世絵に残る茶飯屋の看板には12
文とある。
茶飯屋ちゃもない〔茶もない〕茶気もない。茶気とは、風流な心。ちゃり〔茶利〕滑稽。ユーモラスな邦楽を、チャリものという。チャルメラ唐人笛(とうじんぶえ)のこと。昔は飴屋が吹き、今は夜半に流す中華そば屋が吹いて来る。「ホニホロ」ともいった。ちゃんから中国人のハイカラな人。悪口には「ちゃんから亡者(もうじゃ)」。ちゃんぎり〔叩鐘〕今日でも祭礼や寄席の囃子には使用する楽器。さしわたし3寸ぐらいの丸いフタのような鉦(かね)で、左手に持ち、右手に先に玉のついている撥(ばち)を持って、内面をするように打ち鳴らす。よすけ。ちゃんちゃらおかしい片腹いたい。問題にもならないほど下らないことでおかしくてならない。笑止千万。チャンチャンぼうず
〔ちゃんちゃん坊主〕支那(中国)人をののしっていう言葉。明治27
年にはやった改良剣舞に「日清談判破裂して、品川のりだす吾妻艦(中略)遺恨かさなるちゃんちゃん坊主」。ちゃんば〔占城〕鮫(さめ)の皮。ちゅうげんこもの〔仲間小者〕武家の下男のなかの頭分(かしらぶん)が仲間。小者は、武家の雑役夫。ちゅうだん〔中段〕はしご段の中途の段。「ゆうべ夢みた大きなゆめを、芝の愛宕の中段ごろから、ステテンコロリと落ちた夢」という字余り都々逸があった。ちゅうとうぎっぷ〔中等切符〕二等の切符(劇場などの)。→「かとう」ちゅうとうまちあい〔中等待合〕今日の汽車の二等待合室。「誰とも知らで中等待合の内より声を懸けぬ。」(尾崎紅葉「金色夜叉」)ちゅうぼうしょ〔中奉書〕奉書には、大中小とあり、そのうちの中。皺(しわ)がなく、純白で、昔、上意を奉じて下知(げち)するにつかったのでいう。今日も礼状や返事など目上の人にあげるものをしたためるときに用いる。ちゅうもん〔中門〕社寺の楼門と拝殿や本堂の間にある門。ちゅうよぎ〔中夜着〕掻巻(かいまき)のやや大きいもの。ちょうえきば〔懲役場〕刑務所。ちょうじぶろ
〔丁字風呂〕薬湯。香の高い沈丁花(じんちょうげ)の蕾(つぼみ)は丁字香という薬になるゆえ、香りあるそれらの薬でわかした湯。ちょうじゃ〔諜者〕探偵の下をはたらいて、いろいろ犯罪や犯人のことをきいて来る男。下ッ引(したっぴき)ともいった。ちょうじょう
〔重畳〕結構。ちょうしんする〔朝臣する〕明治政府へ仕える。ちょうずだらい〔手水盥〕洗面用の小さな盥。ちょうだい〔町代〕名主の次位にある町役人。ちょうちょう〔蝶々〕遊女屋でおつりを、客が進んでいないのにムリに奉公人にやる、その金。遊女がもらう金が蝶頭(はな、花)なので、蝶々としゃれた。ちょうちょうまげ〔蝶々髷〕
「維新前十歳前後の少女多くこの風に結びしが今は少し」(明治11
年版「古今百風吾妻余波(ここんひゃくふうあずまのなごり)」)
蝶々髷ちょうちんでもち〔提灯で餅〕老年の精力の衰えた男が情交することをいう。「提灯で餅をつく」ちょうちんもち〔提灯持〕臨時の手つだい。臨時の助手。またムダな人をほめてのさばらしたことを、泥棒の提灯持などという。必要以上にひとりの人をほめちぎって宣伝してやることをも提灯持という。ちょうところばんち〔町所番地〕町の名と番地。「鼻紙へ町所番地迄、自身に書いて下さいました。」(河竹黙阿弥「綴合於伝仮名書(とじあわせおでんのかながき)ーー高橋お伝」)ちょうなみ〔町並〕遊女屋の中流以上の店。ちょうば
〔丁場〕距離。仕事の受持区域。短距離をほんの一(ひと)丁場。遠いことを長(なが)丁場。転じて芸能の上演時間にも使う。ちょうもく〔鳥目〕金銭。ちょうもと〔帳元〕勘定の値段づけと取締をする人。ちょうれんば〔調練場〕兵隊の訓練をする広場。練兵場。ちょく〔直〕安直。勿体振(もったいぶ)らない様子。「あの人は直でいい」ちょくちょくぎ〔ちょくちょく着〕ちょいちょい着。ふだん着。ちょちちょちあわわ幼児をあやすことば。「ちょちちょち」で左右の手を返しながら軽く叩いてみせ「あわわ」で右手をひらいて指の先で自分の下唇を軽く叩き、あわわという音はわ、わ、わ、わとふるわせる。ちょっきりむすび〔ちょっ切り結び〕チョコンと無雑作に結んだ帯。ちょっくらかえす人のいる前で金や品物をごまかすこと。ちょっくらもち小泥棒。こそこそ泥棒。「ちょっくら持ちゃ押借りでとうとうしまひは喰(くら)ひこみ、身体へ疵(きず)のついた新三だ。」(河竹黙阿弥「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)ーー髪結新三」富吉町新三内の場)ちょっくり一寸。ちょっくら。ちょん足りない人のこと。「たとえバカでもチョンでも……
」ちょんきな「ちょんきなちょんきなちょんちょんきなきな」と歌いつつ踊り、横浜の遊女や芸者が一つずつ着物をぬいで行くストリップ。安っぽい人のことをいう。ちょんちょこちょこちょこ。ちょんちょんごうし〔チョンチョン格子〕小店(こみせ)。下流の女郎屋。小格子。大籬(おおまがき)の対。ちょんのま少しの間。転じて花柳界などでは少時間で情交することをいう。ちらばらバラバラのこと。チラホラ。「柩(ひつぎ)は雪の中を冒(おか)して、漸く千住在(ざい)へ来た頃には、道傍(みちばた)の雑木林やちらばらに立って居る茅葺(かやぶき)の屋根などは、もう真白であった。」(永井荷風「夢の女」)ちりからかっぽ三下(さんさが)り騒ぎ唄を太鼓入りで歌っている遊里の光景の形容。ただし、本来は吉原のみが鼓と太鼓入りで騒ぎ唄をかなでるその形容ゆえ、新宿その他の廓にはつかわないの説もある。ちりかたっぼ。「ちりから」は鼓、「たっぽ」は太鼓(おおかわ)の擬音語。「ちりからちりからつったっぽ」などという。ちりづか〔塵塚〕ごみため。ちりめんごろう〔縮緬呉絽〕呉絽(オランダ語のgrofgrein
の略)、もとは駱駝(らくだ)、いまは羊毛または麻、綿を混じた西洋の毛織物で、縮緬らしく見せかけたもの。ちんけえとう〔珍毛唐〕珍しい毛唐人の略。わからずやをののしることば。ちんころ〔矮狗〕日本特有の愛玩犬。頭が大きく、目が大きく突き出して上下の顎(あご)は上へそる。毛は綿毛のようにフサフサしていて、耳、股、尾に総毛(ふさげ)があり、色は黒と白、白と茶の斑(まだら)多く、稀に純白、純茶いろ、黒、茶、白をまじえるものもいる。名古屋が主産地というが、近年は少なくなった。ちんちくりん〔珍竹林〕背の低い人。ちんちんやきもちのこと。「俺もちんちんを起した」。「大分ちんちんだった」という風につかう。ちんちんかも〔ちんちん鴨〕男女の仲むつまじいこと。ちんちんかもなべ〔ちんちん鴨鍋〕好いた同士が冬夜、鴨鍋をむつまじくつっついている光景。ちんどく〔鴆毒〕中国でその羽を酒に浸して毒殺するに用いた鳥の毒。中国南方の山中に住み、形は梟(ふくろう)に似、紫黒色、首が長く、くちばしが赤黒く、全身の毒気が烈しいという。斑猫(はんみょう)などとともに江戸期の毒殺事件ではおなじみのもの。