といとむらい

〔訪い弔い〕葬式。
「訪弔も御回向(ごえこう)も、逆縁ながら衆のゆかり。外の千僧供養(せんそうくよう、多くの僧の供養)よりうれしう二人が死出の旅」(新内「明烏後妻夢(あけがらすのちのまさゆめ)」)
といやば
〔問屋場〕街道の宿場で継立(つぎたて)をした問屋。継立とは前後の駅からの人や馬や駕籠や荷物を次々とおくる世話をすること。
どういん
〔導引〕中国の長生法に発し、もみ療治のことをいう。按摩(あんま)導引。
どうがなして
何とかして。どうかして。
どうがね
〔胴金〕刀の鞘の中ほどにはめてある環のようになっている金具。胴金づくりの刀のこともいう。
「血だらけの胴金をひっさげて上って来ました。」(三遊亭円朝「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」)
とうき
〔当期〕さしあたり。当分。
どうぎ
〔胴着〕上着と襦袢(じゅばん)の間へ着る防寒用の短い下着。
とうきゅうじゅつ
〔陶宮術〕天源術から出た開運の教義。天保
5年、横山丸三が創始。宮は本心の宿れる宮の意味。もっぱら生年月日の十干、十二支の配合により、宿命的な判断をなすもの。
とうけいこ
〔東京子〕昔はとうきょうといわず、とうけいとよんだ。東京生れの人。
とうさい
〔当歳〕1歳。以前は数え年計算であったから誕生と同時に1歳である。したがって誕生したその歳というところから、1歳を当歳といった。
どうさびきのみのがみ
〔礬水引の美濃紙〕礬水(明礬(みょうばん)を溶かした水(膠液))を引いた(墨や絵の具のにじまぬため)岐阜県土岐郡恵那から産する強くて厚い日本紙の一種。
とうざらさ
〔唐更紗〕唐から渡来した更紗。今は、ほとんど見ない。
とうざん
〔唐桟〕細番の諸撚(もろより)綿糸で平織にした趣のある通人向の綿布の縞織物。
どうじき
〔堂敷〕ばくちをやる座敷。
「色の仲宿(なかやど)やばくちの堂敷が何ほどの罪だ。」(三遊亭円朝「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」)
どうじごうし
〔童子格子〕昔、丹波の大江山に住んだ酒呑(しゅてん)童子の衣服からとったという。荒い太い格子縞(こうしじま)。「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」車引の松王丸・梅王丸・桜丸が着ている。
どうしゃ
〔道者〕巡礼、修行者の意味もあるが、講中に加わって参詣する人々もいう。
どうしゅう
〔銅臭〕金銭ばかり崇拝してからだじゅうから金の匂いがしているとののしったことば。「あいつは銅臭芬々(ふんぷん)だ」
どうしん
〔同心〕原胤昭(はらたねあき)「与力同心の由来」によると、同心は250人あり、同心も世襲(子があとをつぐ)で南北町奉行所へ属したことは与力に同じ。市中巡廻(パトロール)を廻り方と称え、定(じょう)廻りと臨時廻りと陰密(おんみつ)廻りとあり、みな同心の役であった。同心も八丁堀に多く居住したが、与力のような邸宅ではなく町屋住居で、同心のみ本所に一部が住んだこともあった。
三村竹清「江戸地名字(あざな)集覧」には「本所中之郷若町」がかっての同心町であったと記している。小石川にも同心町があるが、明治
14年版「改正新版東京案内」には誤記か「同新町」とあり「江戸町づくし」にはその名の見当らないのは同新町が元の名で、のちに同心の存在しない時代となってから「同心町」と称えられるようになったのであろうか。
とうしんのさんばいず
〔灯芯の三杯酢〕二日酔のとき、さっぱりしたものがたべたいときにいうしゃれ。「しつこいものはいやだから灯芯の三杯酢でもくんねえ」
どうちゅう
〔道中〕旅行の途中。「花魁(おいらん)道中」の略。
とうとう
刀のこと。児童語。
どうぬき
〔胴抜〕胴の部分に別の色の布をつかった、派手な下着。
とうはちけん
〔藤八拳〕狐拳の一種。続けざまに3度勝ったものを勝と定めるもの。天保のころ花村藤八なる売薬行商人の呼声から「藤八ーー五文ーー奇妙」と通人が狐拳の掛声にもちいたにはじまるという。一説には、吉原の幇間藤八の創始ともつたえられる。
とうゆ
〔桐油〕桐油製のおおいを略していう。少し前までは「油紙」「防水加工布」「ゴム引」などの類、今日ならビニール布である。
とうらい
〔到来〕よそからおくりものがとどくこと。また、そのとどいた品(到来物)。さらに他へそのままおくる場合は「到来合せですが」「到来にまかせ」などとことわりをつけた。
どうらん
〔胴乱〕草で製した四角な袋。薬や印などを入れて腰へ下げる。今日では昆虫採取の獲物入にその名をとどめている。

どうりで
〔道理で〕なるほど。そういえば。
どうれ
道理(どうり)のなまり。
どうわすれ
〔胴忘れ〕ちょいと忘れたこと。ど忘れ。
どうをすえる
〔胴を据える〕膝を左右にひらいて胴体のあり方をしっかりとさせる。
とおしえり
〔通し襟〕絆纏(はんてん)の一ばん裾まで長く襟のかけてあるもの。
とおしかご
〔通し駕籠〕遠い道中を一つ駕籠へ乗り通して行くこと。「通し駕籠で行こう」
とおっところ
〔遠っ処〕遠方。
とおどお
〔遠々〕遠方。遠路。
とおどおしい
〔遠々しい〕暫くお見えがない。
「おや美濃部さんお遠々しいねえ。」(三遊亭円朝「黄薔薇(こうしょうび)」)
とおみ
〔遠見〕見えがくれ。
とおりあくま
〔通り悪魔〕ふってわいた災難。通り魔。
とおりかぐら
〔通り神楽〕町をとおって行く獅子舞などの囃子をあらわした歌舞伎の音楽。下町の商家の場の幕あきなどにつかう。
とおりもの
〔通り者〕通人。
「茶の一本緒のすがりました雪駄(せった)をはいて、その頃の通り者の打扮(なり)で、」(三遊亭円朝「錦の舞衣(にしきのまいぎぬ)」)
とがにん
〔科人〕罪人。
とき
〔斎〕お寺で檀家(だんか)、信者に供養のために出す食事。また、檀家や信者の家で僧侶、来客にあげる食事。食事は正午をすぎないうちにだすべきで、午後のは非時(ひじ)という。
ときうま
〔駿馬〕体格も走る力も大きい名馬。
ときより
時折(ときおり)のなまり。
とくしんづく
〔得心づく〕承知の上。→「づく」
とぐち
〔戸口〕出発点または原因のこと。
「人の噂は戸口を言わず、中程(なかほど)を言わず、吃度果(きっとはて、結果)を言う。」(斎藤緑雨「朝寝髪」)
とくぶん
〔得分〕利益になるもの。
とけどけと
心の苦しみが解けて楽になったをいう。
遊女若草「サバサバしたんざますよ。今夜はとけどけと寝られようかと思ふんざますから、」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)
とこいそぎ
〔床急ぎ〕男女関係で、一しょにねるのを急ぐこと。早く共にねたがること。
とこさかずき
〔床盃〕新郎新婦が床に入る前に祝ってかわす盃。
とこさし
〔床さし〕遊女が客とねるのに病気その他で都合が悪いこと。床の差合(さしあい)。「床さしをついてことわる」
とこなじみ
〔床なじみ〕遊女とねてから特別にやる金。床花(とこばな)。
どくはい
〔独杯〕ひとりで酒をのむこと。「独杯でやっていた」

とこみせ
〔床店〕商品を売るのみで人は住めないごく小さな店。
ところばらい
〔所払〕その土地を追われること。
とざい
〔徒罪〕昔の五刑の1つで島流しより軽く杖罪(じょうざい、杖で打って追放)より重く、1年から3年までが期間で、半年を増すたびに一等を加え、すべて五等ある。徒罪(ずざい)ともいう。単に「刑罰」という意味にも使う。
とさん
〔土産〕みやげ。明治時代は漢語ばやりで、こういうことばづかいをした。
とし
〔年〕年廻りの略語でもある。
としあい
〔年合〕年の具合。
どしごみ
入れ込みのこと。大ぜい一しょにいること。「あの座敷へどしごみに入れられた」
としごろ
〔年頃〕年来。近来。「この年頃にこんな変ったことはない」
どしつけな
無理な。
としま
〔年増〕女。やや若い盛りをすぎた女。昔は2425からをいったが、今日では約10年はずれたようだ。→「むすめ」「しんぞう」
としをひろう
〔齢を拾う〕としをとる。
どじをふむ
しくじってしまう。「とんだどじな野郎だ」などともいう。
とせい
〔渡世〕くらし。業。「酒屋渡世」は酒屋、「香具渡世」は香具師。改まった場合、たとえば町奉行所白州(しらす)などで「××町○○店△△渡世某」などと。生活手段。職業。「渡世人」
どぜえむ
土左衛門(どざえもん)のなまり。
とぜん
〔徒然〕退屈。落語の横町の隠居が「サアサア今日は徒然だからゆっくり遊んでおいで」などという。
どだいをまたぐ
〔土台を跨ぐ〕敷居をまたぐ。家へ足をふみ入れる。
とたんをうたす
〔途端を打たす〕はずみをつける。
とちおくまんりょう
〔栃億万両〕何億万円ということ。栃は十千(とち)にあたる。
とちめんぼう
うろたえ、さわぐ姿。「とちめん棒を振った」
とちる
あわてる。しくじる。
どっきり
ハッとおどろく形容。今日は、ドキンとした、ドキッとしたという。
どっこいどっこい
大道でやるばくちの一種。「どっこいお張りよ」と声をかけるゆえで、この商売をする人を、どっこい屋。
とっこにとる
〔とっこに取る〕言質にとる。真言宗の修行にもちいる独鈷(とっこ、銅または鉄製)は尖った両端がわかれていないゆえ、動かすことのできない言葉の証拠の意味になったと見てよかろう。
「何しにお前に当つけよう、この子があんまり分らぬと、お力の仕方が憎らしさに思いあまって言った事を、とっこに取って出てゆけとまでは酷(むご)うござんす。」(樋口一葉「にごりえ」)
とったかみたか
〔取ったか見たか〕アッという内に。考える間もない内に。すばやいずるい金もうけのこともいう。「とったかみたかだよ」
トッタリ
芝居の捕手のこと。大勢で一せいに「捕った!」といってからとびかかるから。
どっちり
どっさり。たくさんの意。
とってかえし
〔取って返し〕取返し。「もう取って返しがつきません」
とってもつかぬ
話にならないこと。おもいがけないこと。
とっぱくさ
急ぎ、あわてること。「とっぱくさしていた」
とと
魚や鳥のこと。児童語。
とどく
〔届く〕(祈念、思慕などの)反応があらわれる。企画が成功する。「私の一念が届いた」→「ねん」
どどくる
都々逸を歌うこと。
「どどく(都々逸)る、ちゃづつ(茶漬)る、などいうは落語家より始まりしものなるべし。」(斎藤緑雨「ひかへ帳」)
とねがわにする
〔利根川にする〕ここにあるだけの酒でやめること。利根川のはては銚子ゆえ、ここにある銚子だけでやめるという洒落。
とば
〔鳥羽〕着物の陰語。芸人が多くつかう。
とばり
〔○○斗張〕臼(うす)の大きさのいい方。「
5斗ばりの臼」は五斗つけるだけの大きさの臼。
とび
〔鳶〕消防夫。鳶グチという棒の先へ鳶のくちばしに似た鉄の鉤をつけたものをいつも持ち、彼らが働くときにこの棒でモノをひっかけたから、この名が起った。
どびさし
〔土庇〕座敷の外側へ深くさしかけて土間をおおうひさし。捨廂(すてびさし)
とほかみ
神を祈ることば。
「登保加美恵美多米祓賜清賜(とほかみえみためはらひたまへきよめたまへ)と唱(とな)ふれば天地の諸神あわれみをたれたすけたまうなり。」(瀬山佐吉編「善悪夢はんじ」明治21年版)
黒住教(くろずみきょう)「『トホカミ、エミタメ』。信者はいずれも、沸き上る興奮をおさえているのであろう。その声は外へ吐くというよりも、内へのむ形であった。」(邦枝完二「白扇」)
とま
〔苫〕茅、菅であんだ菰(こも)に似たもので、船の上部をおおう。「苫小舟」
どま
〔土間〕劇場の舞台の前から中央一帯にかけて、やや広い部分の観客席。平土間(ひらどま)ともいう。中等席である。→「しばや」
とまえ
〔○○戸前〕土蔵の数え方。「二(ふた)戸前」は土蔵
2つ。
とまくら
〔苫枕〕萱(かや)であんだ菰(こも)のようなものでふいた船の屋根(苫)で、取りはずしができる。

とめ
〔留〕
2つの木材が直角またはある角度で出あうとき、その角を折半して接目(つぎめ)をもうけたもの。
ともまえ
〔供前〕自分の供の歩いて行く先。「供前をよぎって無礼だ」
とや
〔塒〕鳥がねぐらにつくよう、旅へでた芸人が不況のため宿屋なり興行場なりに泊ったなりで、どこへも行けないこと。また病気で家にいることをもいう。放蕩ものの間では梅毒に感染することをも「トヤにつく」といった。→「はんどや」
どやす
なぐりつける。
どようかし
〔土用菓子〕なつかしいこと。夏菓子のしゃれ。
どようのたけのこ
〔土用の筍〕むだなこと。
どら
〔放蕩〕遊蕩。道楽(どら、どうらくに同じ)。古川柳に「労咳(ろうがい、肺病)の親は世間のどらをほめ」。「どら息子」
とり
寄席用語。真打(しんうち)。今日では主任といい、寄席の最後へ出演する花形や大家の落語家や講談師や浪曲師。昔は、一と晩の収入は寄席と分けたのこりをみな一応真打が貰い、それを出演者へ分けた。だから大入なら分けたのこりを全部真打の収入としてもうかる代りに、不入りのときは自分の銭を足して他の人々の給金を払った。その晩の収入をみなとるゆえ、トリといった。
とりおき
〔埋葬〕死んだ人を埋めるのにこうしたいい方があった。
とりおとしもの
〔取落し物〕落しもの。
「何か取落し物はないか。」(河竹黙阿弥「霜夜鐘十字辻筮(しもよのかねじゅうじのつじうら)」)
とりこす
〔取り越す〕忌日を繰り上げて法事をする。
とりこわし
〔取壊し〕取りはらい。
とりさえる
〔取り支える〕取りなす。
とりしきる
〔取り仕切る〕身に引き受けて扱う。専行(せんこう)する。一切やる。
とりつぎ
〔取次〕面会人。取次(受付・案内)を求める訪問者。「おい、玄関に取次があるよ」
とりなし
〔執成〕斡旋。
とりのまちのあわもち
〔酉の町の粟餅〕今日の酉の市では粟餅を売るが、そこかしこの店で沢山うっているので、コテコテという意味につかう。「酉の町の粟餅ほど紙幣(さつ)をだした」
とりまわし
〔取廻し〕客あしらい。とりなし。扱い。
「以前、芸妓(げいぎ)だったそうで、定めし座(ざ)の取廻しもよかろう。」(三遊亭円朝「業平文治漂流奇談」)
とりやり
〔取り遣り〕やりとり。
ドリンケン
泥酔。ドロンケン。英語drink(動詞・飲む)、ドイツ語trinken(動詞・飲む)からきたのだろう。
ドルだん
〔弗旦〕横浜ことばで、貿易商などドルをかせぐ金持ちのこと。芸者の旦那のこともいうときがある。
どれ
どこ。どんな場所。
「お見受け申せば、お若えのにはお一人旅でごぜえやすか。シテどれからどれへお渡りでごぜえやす。」(桜田治助「鈴ケ森」)
どろどろ
ぞろぞろ。
「今、新助が車に乗る様子を見て居ると、表までどろどろ送り出し、」(三遊亭円朝「松と藤芸妓(げいしゃ)の替紋(かえもん)」)
どろぼっけ
〔泥ぼっけ〕泥だらけ。
ドロンケン
「ドリンケン」。明治開化期の都々逸に「毛布(フランケン)質においてブランデン飲んで、それであたしがドロンケン」。
どをすえる
〔度を据える〕度胸をきめる。
どん
〔午砲〕明治499日から毎日正午を期して、東京では宮城内から大砲を打ち、時をしらせた。昭和4年になってサイレンに変った。
「先生と大きな声をされると、腹のへった時に丸の内でドンを聞いたやうな気がする。」(夏目漱石「坊ちゃん」)
どんじまい
最後。どんづまり。どんじり。
どんずりやっこ
〔どんずり奴〕伊達奴(だてやっこ)のごとく頭の前を後方までそり上げ、幇間銀杏(ほうかんいちょう)というゆい方をさらにユーモラスにしたもの。
とんする
落ちること。児童語。
とんだ
大へんに、すばらしくの意味。「とんだいい天気」とか「とんだ災難」とか、いい場合にも悪い場合にもつかった。
どんたく
日曜日。休日。オランダ語のzondagをなまっていう。
とんちき
間抜けな人のこと。
とんとん
五分五分。
とんびとろろ
〔鳶とろろ〕鳶のなき声だが、昔は鳶がよく地上へ舞い下りて、油揚(あぶらげ)や魚のはらわたなどをさらって逃げたので、ものをさらわれることをいった。昼間くる泥棒を「昼とんび」といったのもこのためである。
「拾って店へ並べて置きゃ札をつけて軒下へぶら下げて置くと同一(おんなじ)で、忽ち鳶トーローローだい。」(泉鏡花「註文帳」)
とんぼ
〔蜻蛉・筋斗〕歌舞伎の立廻りの用語で、宙返りのこと。「とんぼを打つ」「とんぼを切る」という。