びいどろ

〔硝子〕ガラスの古いよび方。ポルトガル語のなまり。
びいびい
帯のこと。児童語。
ぴいぴいたぼ
〔ぴいぴい髱〕ぴいぴいはつまらないとか低級とかいう意味で、下等な売笑婦。
ひうちぶくろ
〔火打袋〕火打道具を入れる袋。
ひおおい
〔日覆い〕劇場の舞台の天井からつりおろしてある横に長い黒布。一文字(いちもんじ)ともいう。
ひかがみ
〔引屈〕膝の後のくぼんでいるところ。
びかちょう
〔鼻下長〕女にのろい人。鼻の下が長い人。「あいつらは鼻下長連(れん)だ」
ひきあい
〔引合〕連累(れんるい)。共犯。
ひきごと
〔引事〕説明のために他の文句を引用すること。講談の一節にひかれるエピソードのことをも、いう。
ひきずり
〔引摺り〕無精な女。
「ええ、おめえのやうな曳摺(ひきず)り嬶(かかあ)が『によろによろ』してゐたって何の役に立つものか。よし原の煤掃(すすは)きとは訳が違はあ。」(岡本綺堂「権三と助十」)
ひきずりもち
〔引摺餅〕賃餅(ちんもち)の一種。数人が組んで餅つきの道具をたずさえ、注文を受けた家でついた餅。
ひきだちのせっちん
〔○疋立ちの雪隠〕○戸つづいて建てられてある総後架(そうごうか)。→「そうごうか」
ひきだて
〔○疋立〕○疋で引く馬車。○頭立に同じ。

ひきつけざしき
〔引付座敷〕遊女がまず客に顔を見せ、飲食などする部屋。ひきつけ。→「にかい」
ひきつけじょう
〔紹介状〕紹介してやる手紙。
ひきつける
〔引き付ける〕呼び寄せてひいきにする。
「大事な男をそそのかし、夜ひるとなく引付けられ、しやうばいごとはうはの空」(新内「若木仇名草(わかぎのあだなぐさ)ーー蘭蝶」お宮口説(くどき)の段)
ひきてぢゃや
〔引手茶屋〕廓にあって、遊客を遊女屋へ送り迎えをし、また酒宴をなさしめる茶屋。第一流の遊女屋(正店(おおみせ))は、引手茶屋からおくられて来る以外は決して客にしなかった。また廓の情調を喜んで、引手茶屋で芸者や幇間をあげ、ここだけで遊んでかえる人々も少なくなかった。今日も吉原に松葉屋がのこっている。
ひきふだ
〔引札〕広告のこと。ちらし(人々へまきちらすから)ともいった。
「引札代りにお客様を、極(ご)く大事に致しまする。」(河竹黙阿弥「綴合於伝仮名書(とじあわせおでんのかながき)ーー高橋お伝」)
ひきゃくせん
〔飛脚船〕郵便船のこと。
ひきゃくや
〔飛脚屋〕島屋佐右衛門は日本橋瀬戸物町(三越本店のななめに向う裏)で、上方方面を専門に月3回往復した。三度飛脚のいわれ=飛脚の姿は、脇差を1本差して雨合羽(あまがっぱ)、脚絆草鞋(きゃはんわらじ)ばきで、小形の三度笠をかぶったと今井卯木「川柳江戸砂子(えどすなこ)」にある。またおなじ著者は、他に京屋弥兵衛(室町)、和泉屋甚兵衛(佐内町ーー日本橋通3丁目と4丁目の間の東横)、大坂屋茂兵衛(日本橋西河岸)をあげ、古川柳に「十七屋」と飛脚屋をいうのは旧暦十七夜の月を立待月(たちまちづき)と呼ぶゆえ「忽ち着き」の洒落(しゃれ)の由をしるしている。「十七屋日本の内はあいといふ」の川柳があるように、店によって受持ちの地域があったといえよう。
「昔は日本橋の上に戸板を出し、飛脚見世とて遠近諸国への手紙を取扱ひ、渡世となしたるが、至て瑣細(ささい)の業なりしが、太平に従ひだんだん繁昌して、今は島屋、京屋を始め、其余飛脚問屋の見世は、何れも広大になりしなり。」(喜多村香城「五月雨草紙」)
ひぎれ
〔日切〕期日。「日ぎれの仕事だ」という風につかう。
びけい
〔美形〕美人のこと。
「始の程は何者(なにもの)の美形とも得知(えし)れざりしを、」(尾崎紅葉「金色夜叉」)
ひげさん
〔髭さん〕明治の官員(かんいん)とか軍人とかは、八の字ヒゲをピンとはやしていた。その人々のことをいう。→「かんいん」
ひけすぎ
〔引過ぎ〕吉原遊廓では午後10時に大門をしめてくぐりから出入させ、12時に遊女は張店(はりみせ、張見世とは、夕方に遊女が盛装して店に並ぶことで、明治末年に亡びた)を退く、これをヒケ、その以後をヒケ過ぎ、午前2時を大ビケ、さらにその以後を大引(おおびけ)過ぎといった。
又、四つ(午後10時)には鐘と共に拍子木は四つ鳴らさない。ヒケの鐘のとき四つの拍子木を鳴らす(これを引け四つ)。遊女が張見世から退くとすぐ九つ(午後12時)の拍子木を鳴らした。
「もし星影さん、宵と違って引過ぎは、静かでよいぢゃござんせぬか。」(河竹黙阿弥「曾我綉俠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)ーー御所の五郎蔵」廓内夜更の場)
ひさしかぶり
〔久しか振り〕久しぶりのこと。
ひざともだんこう
〔膝とも談合〕困った場合には、自分の膝をも相談相手にするの意味。
ひしぎだけ
〔ひしぎ竹〕ねじけた竹。あばらやの下見などに使われた。→「したみ」
ひしさ
〔菱左〕菱形(ひしがた)の左半分だけを見せた紋。
ひじつ
〔日日・期限〕期限を切った日のこと。「ひじつをきめよう」
ひそう
〔撫育〕なでるように可愛がって育てる。
「一粒種(ひとつぶだね)の事なれば、なほさらに撫育されるうち、」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)
ひだりまえ
〔左前〕運が悪くおちぶれて行くこと。
ひだりまがり
〔左曲り〕人間がとび上がり(オッチョコチョイ)で変っていること。
ひだるい
〔飢るい〕ひもじい。
「ハハア、聞えた。貴様はひだるいの。丁度よい時事に担ぎめが来たによって、どさくさ紛(まぎ)れにうどんをしてやらうとな。」(津打治兵衛「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」三浦屋格子先の場)
ひっくりかえる
裏切る。
ひっこうかき
〔筆耕書〕今日では、ただ筆耕という。
ひってん
〔必迫〕四方八方が貧しくつまってしまって困ること。
「必迫に必迫を重ねた際とて、到底五十と纏(まとま)った金の調(ととの)ふべき理(はず)が無い。」(小栗風葉「恋慕流し」)
ひっときの
〔引解きの〕解きかけ(着物の)。
ひっぱりのしき
〔引張りの宿〕街へでてお客の袖をひいて来る売女の宿。
ひつぽくだい
〔筆墨代〕昔は宿帳を宿の番頭が記すたび134文の記名料を筆墨代と称えてとられた風習があった。
ひでり
〔旱魃〕異性にめぐまれない状態。「おとこひでり」「おんなひでり」という。
ひと
〔人〕この「人」は、「いやだあね、ほんとに」もしくは「人を馬鹿に」又は「何を馬鹿を……」という位の、ほんの軽いすてぜりふで、旧東京人は軽妙にこれをつかった。
ひといっすん
〔人一寸〕人のからだはたった一寸で大へんなちがいがあるという意味。
ひとがら
〔人柄〕上品。品のいいを「人柄な」、上品な人を「お人柄」。
「なるほど世間はむづかしい。友禅入りの振袖で人柄作りのお嬢さんが追ひ落しとは気がつかねえ。」(河竹黙阿弥「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)」大川端庚申塚の場)
ひとざかしい
〔人ざかしい〕人の出入りの激しい。「人さがしい」ともいう。
ひとしごと
〔他裁縫〕方々の家の仕立物(したてもの)を引き受けてぬうこと。
ひとだち
〔人立〕人がたかること。
ひとちょうば
〔一丁場〕一と区間。ほんのわずかの距離。→「ちょうば」
ひとつぶもの
〔一粒者〕ひとりしかない子。一粒胤(ひとつぷだね)。
ひとにひとおにはない
〔人に人鬼はない〕世間に鬼のような人ばかりはない。渡る世間に鬼はない。
ひとぬし
〔人主〕遊女に売る折の親代り。
「女房が人主となり、判代(はんだい)も金利(きんり)も取らず、」(三遊亭円朝「後開榛名梅香(おくれざきはるなのうめがか)ーー安中草三郎」)
ひとはしかける
〔人橋かける〕人を間に立てて交渉。
ひとべらし
〔人滅し〕奉公人を減らすこと。
ひとまちがい
〔人間違〕人ちがい。
ひどめせきゆ
〔火止石油〕
「初期その取扱を誤りて屢々(しばしば)火災の原因を為す。左に、明治十年八月十五日の〔読売〕に、東京向島須崎村千歳亭の名にて広告せる安全火止石油の一例を挙ぐ。『明治四年六月足立徳基発明いたし、東京府庁に於て検査の上官許(かんきょ)を蒙(こうむ)り、式部寮御用掛火止石油製造仰付(おおせつ)けられ、宮中一般御採用相成り品にて、有明に致し置いても燃込(もえこみ)の気つかひ無し云々』といひ、又一種蠟燭油とて、原質気発油(げんしつきはつゆ)をやわらかに製し器中に入れて蠟燭の代りに、燭台提灯等に用ゆべき様にせる物あるを広告せり。」(石井研堂「明治事物起原)」)
ひとりぐち
〔一人口〕ひとりぐらし。「一人口は喰えないが二人口は喰えるというくらいだから、お神さんをお持ちなさいよ」
ひとりゆき
〔独歩〕一人前。ひとり立ち。
ひとをツけえ
〔人を使え〕人をバカにしやがるなとか、なめるなとかいうような場合につかう。
「なんだ、まだ湯はあかねえか。朝寝なやつらだぜえ。エエ人をつけえにした。」(式亭三馬「浮世風呂」)
ひなたくさい
〔日向臭い〕日光の直射を受けがちの人や物は衣服や髪などがかわいた独特の匂いを発散する、その形容。転じて、しっとりした情趣を身につける前の少女を表現することもある。
ひのまわり
〔火の廻り〕火の用心。
ひのものだち
〔火の物断ち〕→「たちもの」
ひはかた
〔緋博多〕博多帯の緋いろのもの。男性用としては花やかすぎたが、特別にしめる人もあった。
ひばやい
〔火早い〕火事早い。
ひふ
〔被風・布〕女が着物の上に羽織るもの。羽織に似ているが、左右に立(たち)えりをつけ、えりの廻りにさらに小さいえりをつけた。色紐を編んだアクセサリーが、えりの前に4つついていた。
びふ
〔美婦〕美人。五代目三升家小勝(先代)の落語「熊坂」で常盤御前を源家名題の美婦といい、美婦(岐阜)は地震が多いからイヤだと、明治の濃尾大震災にかけて洒落をいった。
ひぶみ
〔日文〕毎日てがみをやること。「日文矢文(やぶみ)」ともいう。
ひぶん
〔非分〕いけない点。
ひぼ
紐(ひも)のなまり。さらに「しぼ」ともなまる。
ひまち
〔日待〕陰暦105日夜、精進潔斎(しょうじんけっさい)をして起きつづけ、朝日をおがむ。「だいまち」ともいう。
ひまどれる
〔暇取れる〕時間がかかる。
ひゃくしょう
〔百姓〕洗錬(せんれん)された文化人を以て自任した江戸人は、ユーモアの分からぬ地方人をこのようにののしり、江戸人同士でも話の分からぬ人たちを「百姓」といった。現に震災前後の劇場の立見ではツボはずれな声を舞台へ投げるものがあると「百姓黙れ」とどなった。また単に「百」とだけいうこともある。「俺はそんな百じゃねえや」→「いな」
ひゃくたたき
〔百叩き〕昔は、出獄のとき役人が出獄者を杖(つえ)で100回叩いて、のちのちへの戒(いましめ)とした。しかし役人へ金一封の届いている囚人の場合は「101825」という風に数を飛ばして数え、打たれる回数を少なくしてやった。→「おもたたき」「つる」
ひゃくどのさし
〔百度の縒〕神へ願事をしてその宮の廻りを日に100回廻ることを百度を踏むというが、その数をかぞえるためのさし。→「さし」
ひゃくまなこ
〔百眼〕厚紙でいろいろの人の顔の形をつくり、目にあたるところばかりくり抜いて見えるようにしてあるおもちゃ。同一人の泣いたり笑ったり怒ったりしている表情が表と裏に描いてあり、また男女の顔が両面にかかれていて一々それをひっくり返して一人芝居をみせる芸人もいた。
ひゃくまんだら
〔百万陀羅〕百万べん。百万べん真言陀羅尼(しんごんだらに)をくりかえす仏事の「百万陀羅尼」の略。転じておなじことを何度もくりかえすこと。→「だらにすけ」
ひゃくりょうのかたにあみがさ
〔百両の抵当に編笠〕気は心だから、どんなわずかの抵当(ていとう)でも入れておくという意味。
ヒヤヒヤ
演説をほめることば。英語のhear(聞く)の命令形を重ねて「聞け、聞け!」つまり「謹聴(きんちょう)、謹聴!」「賛成、賛成!」と使ったのである。
ひやめしをくう
〔冷飯を食う〕居候(いそうろう)をする。
ひやわい
〔庇間〕ひあわい。近寄った家の庇(ひさし)と庇の間。
ひょうぎ
〔評議〕相談。
びょうぶひとえなか
〔屏風一重中〕同衾(どうきん)中。遊女とねている床の中。高級な遊女屋のそうした部屋には、床の廻りに高い屏風が立て廻してあるからである。
「屏風一重中でいった事は皆、反故(ほご)同様だ。」(三遊亭円朝「粟田口霑笛竹(あわだぐちしめすふえたけ)」)
ひょうろうかた
〔兵粮方〕生活の全部を受け持ってくれる人。食生活の面倒を見てくれる人。→「かた」
ひよく○○
〔比翼○○〕比翼とは2羽の鳥がたがいに翼を並べることをいう。中国の伝説には、おすめす2羽でありながら翼がくっついていて、いつも一体で飛ぶ「比翼の鳥」というものがあった。玄宗皇帝と楊貴妃とのロマンスをうたった白楽天の「長恨歌」という詩には、「天に在りては作(な)らん比翼の鳥、地に在りては願はくは為(な)らん連理の枝」とこの鳥が美しくよみこまれている。この詩は非常な名作で多くの人々に愛誦されたから、後々にはただ「比翼」というだけで恋人や夫婦の間柄、恋の誓いの堅さなどをあらわすようになった。すなわち、情死したり、深くちぎり合って死んだりした男女の墓を「比翼塚」、おたがいの定紋を恋人同士が組み合わせてつけるのを「比翼紋」、それをおもしろく散らした図案を「比翼散らし」、1冊の書物をむつまじく2人で読むのを「比翼読み」、中央でつながれ、折りたためるようになっている2枚分のござを「比翼茣蓙」という。
ひょぐる
おかしい行動の人。「ひょうげた人だ」と昔はいった。小便をすることをもいう。
ひよけち
〔火除地〕火災や地震のときの避難のため、町中のところどころに大きな空地をこしらえ、平常は曲馬や大道芸人がかかって客を集めた。
ひよめき
〔顖門〕頭の一ばんやわらかい部分ーー厳密にいうと、赤ん坊の頭蓋骨のまだかたまらず、呼吸するたびにヒクヒク動くところ。
ひょろぬけ
(下痢などで)全部体内から排出してしまったのでヒョロヒョロすること。
ひょんな
万々一の。おもいもかけない。妙な。
ひらあぐら
〔平胡座〕普通のあぐら。
ひらき
〔開き〕木戸。
ひらきがつく
〔開きがつく〕気が付く。我に返る。覚醒したり心気爽快(しんきそうかい)になったりすることを「胸が開く」という。
「救命丸(きゅうめいがん)を一と粒か二た粒のますとぢきに開きがつく。」(三遊亭円朝「怪談乳房榎(ちぶさえのき)
ひらける
〔開ける〕心が洗錬されている。野暮でない。町が繁華になる意味のひらけるから転じて、進取的な性格の人をもいう。
ひらばかま
〔平袴〕半袴(長袴でない普通の袴)。
ピラミイデ
エジプトのピラミッドのこと、明治東京語はこう発音し、大石塚とかいてカナをふった。
ひるがえり
〔昼帰り〕遊んで朝かえるのを朝がえりといったが、さらに午後まであそんでかえる人々をいう。
ひるとんび
〔昼鳶〕小泥棒。→「とんびとろろ」
ひろ
〔披露〕今日は「ひろう」と発音する。
ひろいみち
〔拾い道〕盲人が杖で道をつついて判断しながら歩くこと。
ひろうな
〔鄙陋な〕取りちらした。むさくるしい。不潔な。
びろくする
〔微禄する〕落魄(らくはく)する。おちぶれる。
ひろそで
〔広袖〕袖口の下の方を縫い合わせない袖。
ひろちゃく
詮議(せんぎ)。
「これからだんだん『ひろちゃく』いたしましたが。」(三遊亭円朝「怪談牡丹灯籠」)
ひろぶた
〔広蓋〕着物を入れる函の蓋(ふた)にまねて造った食物を運ぶもの。
ひんきゅうぜん
〔貧窮然〕貧寒(ひんかん)とした。貧しく困り果てた。
ひんきゅうもの
〔貧窮者〕貧乏人。
びんた
〔鬢た〕首。昔の薩摩武士は「ビンタばちょちょ切るぞ」などといった。兵隊生活で顔をぶたれることも、ビンタをくらう」という。
ひんなり
すんなり。
「評判の美男で、婀娜(あだ)な、ひんなりとした、」(三遊亭円朝「菊模様皿山奇談」)
ひんのぬすみにこいのうた
〔貧の盗みに恋の歌〕貧すればこその盗みと、恋すればこそのその感じをうたう歌。自然の心理の成行(なりゆき)をいう場合に引く言葉。
ピンヘット
明治中頃にはやった西洋煙草。
「美人絵の煤(すす)けたピンヘットの看板を掛額にして、」(小栗風葉「恋慕流し」)