パイいち
〔パイ一〕
一杯のもうというとき、それをひっくり返して「パイ一やろうぜ」という。
はいかん
〔廃官〕役人をやめること。
「廃官の列に入り、其職(そのしょく)を免ぜらるれば、」(河竹黙阿弥「富士額男女繁山(ふじびたいつくばのしげやま)ーー女書生」)
ばいた
〔売女〕淫売婦。おのれを裏切って、他へ男をこしらえた女をののしるときにもいう。
ばいとくぶし
〔売徳節〕オイトコぶしのこと。「オイトコそうだよ紺ののれんに、伊勢屋とかいてだんよ」が原歌。
ばいばい
ばいは芝居のばい。役者のこと。
はいふ
〔配布〕犯人の人相その他を細かく記して各方面へ配るもの。
「義賊と噂高札(うわさたかふだ)に、廻る配布の盥越し、」(河竹黙阿弥「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)ーー白浪五人男」稲瀬川勢揃の場)
はいをいためる
〔肺を病める〕からだを壊す。病気になる。
ばうて
〔場打て〕その場の空気におしひしがれて、自信をうしなうこと。
はおりごろ
〔羽織ごろ〕お羽織ごろとも、羽二重(はぶたえ)ごろともいう。いい装(なり)をしていて、ゆすりやたかりをする人。町の紳士。
はおりしゅ(う)
〔羽織衆〕深川芸者。深川芸者だけは羽織を着たから。「はおりし」となまることもある。→「しゅ(う)」
「フン、私(わたい)かへどころか、最前から猪口(ちょく)のやり所もねえやうに、はばかりながらのおそれいるのと、下から出りゃアおそろしい、高(たけ)へ芸妓だのはおりさんだのがきいてあきれらア。」(為永春水「春色辰巳園(しゅんしょくたつみのその)」)
はがみ
〔片紙〕紙片。紙っきれ。
はくちょう
〔白鳥〕白い瀬戸物の徳利。白い鳥に似ているからいう。
ぱくぱくおやじ
〔ぱくぱく爺〕ぱくぱくは、老いて歯の脱けたことであるが、よぼよぼ爺。老いぼれに同じ。
ばくれん
〔莫連〕すれっからし、以前は「あばずれ」に「莫連女」の字を当てていた。
はぐろ
〔鉄漿〕お歯黒、また、「かね」という。婦人の歯を黒く染める褐色、黒褐色の悪臭ある液体で、鉄の小さいきれはしをお茶の汁にひたしたもの。これにふしのこ(自膠木(ぬるで)などの枝葉に生ずるコブを干して粉にした)をつけて歯を染める。
「誰に見しよとて紅鉄漿(べにかね)つけうぞ」(長唄「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」)
はけ
〔刷毛〕髻(もとどり)の尖端。
「刷毛先の間から覗いて見ろ。安房上総が浮絵のやうに見えるわ。」(津打治兵衛「助六由縁江戸桜(ゆかりのえどざくら)」三浦屋格子先の場)
ばけんば
〔馬見場〕

馬場で馬術を見学するための観覧席。のちには競馬の観覧席をも同じく呼んだ。
はこせこ
〔箱狭子・函迫〕婦人のふところにはさんで持つ、一種の紙入。奥女中や武家中流以上のわかい婦女が使用した。
はこぜん
〔箱膳〕塗った箱の蓋(ふた)が膳になり、箱の内部へ食器が入るようになっているもの。抽出(ひきだ)しの付いているのもある。奉公人用のもの。
はさみかじ
〔鋏鍛冶〕鋏専門に造る鍛冶屋。
はさみばこ
〔挟箱〕着替の衣服や年始のおくりものなどを中に入れ、棒をとおして、下男にかつがせた箱。挟竹(はさみだけ)の「しきたり」がのこったという。種々の法式があった。飛脚もこれを使った。
はしける
少しずつ盗むこと。
はしぢか
〔端近〕端の方。端っこ。「そこは端近、イザ先ずこれへ」などと、芝居の武士が訪問者へ対していう。
はしっぱた
〔端っぱた〕端っこ。
はしばん
〔橋番〕橋の番人。橋詰にいた。橋銭(渡り賃)を貰うところもある。身投げをよく助けた。大正中頃まで、この風習はのこっていた。
はしま
〔橋間〕橋の下の橋桁(はしげた)の中間であるが、いまはこうしたいい方をしない。講談の「小猿七之助」や歌舞伎の「鋳(い)かけ松」の名題に見るのみである。
ばしゃまわし
〔馬車廻し〕邸内へのりいれた馬車をつないでおく所。
はしらかくし
〔柱隠し〕柱の表にかけて装飾するもの。板、陶(せともの)、金属、ガラス製などあり、書画がえがかれてある。柱かけ。
はしらどうふ
〔柱豆腐〕馬鹿貝の貝柱と豆腐の鍋。
はずす
〔外す〕手を抜く。すっぽかす。欠席する。「どうしてもはずされない用事」「君がいるとまずいから、ここをはずせ」
はすぱ
〔蓮葉〕考えなし。軽薄。はすは。はすっぱ。
「都育ちは蓮葉なものぢゃえ」(長唄「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」)
ばせん
〔場銭〕テラ銭や各自の張っている金もふくみ(各自の懐中の金をのぞき)賭場にあるだけの金。
はだあいな
〔肌合な〕特別の心意気を持った。
「田舎者にはあアいふ肌合な気象(きしょう)だから肌は許さぬ。」(三遊亭円朝「敵討札所霊験(かたきうちふだしょのれいけん)」)
はたし
〔ハタ師〕仲買人(ブローカー)。明治56年ころ、兎が大流行したときの大津絵に「かごを立ちぬいて、兎の姿が目に立たば、さげかごに身をうつし、馴れぬはた師の手にかかり」とある。道具屋の仲買もハタ師という。
「はた師とあるのは特殊の名称らしいが寡聞(かぶん)まだ審(つまびらか)にせぬ。ただ前後のつながりで推(お)すと、仲買のやうなものではないかと思はれる。」(鏑木清方「兎後記(うさぎこうき)」)
はだしまいり
〔跣足参り〕跣足で神仏へ参り、祈願すること。
はたもと
〔旗本〕1万石以下の徳川につかえる武士のことであるが、ただ家来という意味に使うときがある。
はちざかな
〔鉢肴〕鉢肴は、鉢に盛ってだす肴。取り肴、挟(はさ)み肴ともいう。
はちじょう
〔八丈〕

東京都八丈島の植物染料で、黄や鳶や黒等に生糸(きいと)を染めて縞(しま)に織った、平織(ひらおり)の絹。
はちまえ
〔鉢前〕手水鉢(ちょうずばち)の前。
はちもんじ
〔八文字〕遊女の道中(著名な遊里で一流の遊女がある一定の日に盛装して廓内を練り歩くこと)の足の踏みかた。
はぢゃや
〔葉茶屋〕茶を売る店。大正年間までこういった。今日は料亭というが、昔は料理屋を料理茶屋、略して茶屋といったので、区別するためにとなえた。「生薬屋(きぐすりや、薬店)」のたぐい。
はつ
〔初〕はじめてその遊女屋へあがること。初会(しょかい)。
はつかしょうがつ
〔廿日正月〕120日をいう。京阪地方では、新年の御馳走につかった塩鰤(しおぶり)の骨や頭や尾をこの日まで貯えておいて、当日、大豆、酒粕、大根と煮て喰べるので、骨(ほね)正月ともいう。
はっしゃまえ
〔発車前〕でたらめ(チャランバラン)をいう人。明治時代の汽車は、発車前に駅夫が鈴を振った。その昔にたとえていう。
はっすん
〔八寸〕高さ8寸ある足のついた膳。八寸膳。
ばったりにうる
〔バッタリに売る〕叩っき売る。バッタに売る。
ぱっち
股引(ももひき)の長くて足頸(あしくび)まであるもの(朝鮮語Pachi
ばっちい
きたないこと。児童語。
はっつけめ
〔磔め〕お仕置になるほどの太い野郎めとののしることば。
「感が悪くって泥坊が出来るかえ、このはツつけめえ。」(三遊亭円朝「菊模様皿山奇談」)
バッテイラ
ボートのこと。大阪寿司の鯖(さば)ずしをバッテイラというは、小さく切らない前の形が似ているからである。
ぱっぱ
煙草、キセルをいう。児童語。
はつはつしい
〔初々しい〕新しい。
はつはつしく
〔初々しく〕春早々(そうそう)。お早々(はやばや)という意味にもなる。
はっぽうにらみ
〔八方睨み〕どの方面から眺めてもその方面を睨んでいるように見える竜の絵などにいう。江の島弁財天の天井にもある。
はつめい
〔発明〕悧巧(りこう)。「このお子さんは発明ですね」
はではでしい
大そう派手な。
はな
〔端〕もののはし。末端。もののはじまり。発端。「はなの方にばかり寄せるな」「はなから昨日は騒いでやった」

ばな
〔○○端〕ちょうどしかかったところ、なりかかった状態。「上り端」「上潮端(あげしおばな)」
はながい
〔花会〕幇間や博徒が廻状(案内文)を廻し、また手拭などを呈し、幇間の場合は諸芸人に無料の上、祝儀持参で、出演の演芸会を催し、その収入を全部自分がもらってしまう。博徒の場合は全国関係筋の親分たちがこれまた祝儀をたずさえて出席、花やかな会合を催す。「天保水滸伝ーー笹川の花会」に見られる情景のごとくにである。祝儀を義理ともいう。講談・落語・浪曲の社会では、花会を「読切り」という。一席読み終ったまま、その報酬を求めぬの意味。
はなガス
〔花ガス〕青白い光りを放つガス灯で、劇場の天井などに設けられていた。
はなかぶり
〔鼻冠〕鼻先を隠すように冠ること。切られ与三郎、因果小僧、鼠小僧、小猿七之助といった類の男たちがもちいている。明治になってからでも黙阿弥の「島鵆月白浪(しまちどりつきのしらなみ)」の松島千太に見る。
はなしのちゅう
〔話の中〕話の途中。「お話の中だがネエ」という風につかう。
はにあう
〔歯に合う〕口にあう。気に入る。適する。
はね
〔打出〕終演。

はねつるべ
〔撥釣瓶〕柱の上に横木を渡し、一方のハシに釣瓶を附け、他のハシに石などをしばりつけて、その重みで釣瓶をはね上げ、水を汲むようにしたもの。明治末年ころは、本郷5丁目辺の町家の井戸でも使っていた家があったことを、筆者幼年にして現に見た。
「町に育った今の女は井戸を知らない。刎釣瓶(はねつるべ)の竿(さお)に残月のかかった趣(おもむき)なぞは知ろう筈もない。そう言う女が口先で『重井筒(かさぬいづつ)の上越(うえこ)した粋(すい)な意見』と唄った処で何の面白味もない訳だ。」(永井荷風「雨瀟々(あめしょうしょう)」)
はねばし
〔撥橋〕

吉原のまわりにあったおはぐろ溝(どぶ)にかけられてある板橋。遊女が逃げないようふだんははね上げてあって、廓の内の者が用事のあるときだけ、それをかけて渡って行く。これは外から内へ渡すことはできず、廓の向う側には横板をうけとめる台があるのみで、必要に応じて廓の者は紐をあやつってこの橋をおろしてつかったものである。
hanebasiはね橋
はばもある
〔幅もある〕ハバがきく。いい顔である。いい存在である。
はま
〔浜〕横浜の略。

はまあきない
〔浜商い〕横浜でやる商取引。外国を相手ゆえ、利益も多く、金のやりとりも荒っぽかった。
はまぐりのすいもの
〔蛤の吸物〕婚礼の料理には、尾頭(おかしら)付きの肴と蛤の吸物をだすのが常例であった。「怪談小夜衣(さよぎぬ)草紙」では、浜田源二郎の婚礼にうらんで死んだ遊女小夜衣の亡霊が、当夜の蛤吸物をみな喰べてカラにしてしまう怪異がある。
はまぐりば
〔蛤刃〕刃と刃の間にふくらみを持たせた刃物。丸刃(まるば)のこと。
はまやき
〔浜焼〕鯛を塩釜の中に入れてむし焼にし、または炉(ろ)にかけて塩焼にしたもの。
はまる
女郎などに迷い込む。
はものざんまい
〔刃物三昧〕刃物沙汰。傷害行為。
はやおけ
〔早桶〕棺桶の下級品。短時間に簡単に造れたゆえ、早桶の名がある。
はやがくもん
〔早学問〕簡単にものをおぼえること。
はやす
細かくきざむ。
「お前が得手(えて、得意)の香の物を細かくかくやにはやしてうまくね。」(三遊亭円朝「月謡荻江一節(つきにうたうおぎえのひとふし)」)
はやだち
〔早立〕早朝出発の旅人。
はやなべ
〔早業〕早く起きてしごとをすること。
はやふね
〔早船〕前から申し込まないでもすぐでる船。
はらあわせのおび
〔腹合せの帯〕2枚の布の裏を帯芯(おびしん)に合わせて綴じた女帝。昼夜帯。
はらいかた
〔払方〕支払い。→「かた」
「晦日(みそか)のことで用もあるから払方をすませ、家で一ぱい飲むといふことをききました。」(三遊亭円朝「業平文治漂流奇談」)
はらがいえる
〔腹が癒える〕心持がすむ。胸がスーッとする。
「ずたずたに切りさいなんでも、何のこれで腹が癒やうぞいの。」(竹田出雲他「仮名手本忠臣蔵」与市兵衛内勘平腹切の場)
ばらがき
〔茨垣〕淫らで行儀のよくないこと。「あの女はばらがきだ」。茨(いばら)の垣根で、だれにでもひっかかるという意味。

はらからの
〔腹からの〕生まれついての。
はらさんざん
〔腹散々〕腹にあるったけ。さんざっぱら。
ばらす
人を殺す。女を売る。秘密を曝露(ばくろ)する。
はらにのる
〔腹に乗る〕同腹(どうふく)になる。共謀。腹をあわせる。
はりまぜ
〔貼雑〕貼交(はりま)ぜ屏風の略。諸家の式紙短冊の類を取りまぜて貼った屏風。
はりみせ
〔張店〕夕方になると遊女が化粧をこらし、盛装して、格子をめぐらした店先にならび、ひやかし(ただみて歩くだけの客)にも煙管(きせる)をだし、一服のませた。遊びたい客は、その中から好きな女を見立てた(えらぶこと)。明治末、故丸山鶴吉が警視総監のときに、廃止した。→「ひけすぎ」
はるけ
〔春気〕春先ののぼせ。
ばれになる
駄目になること。
「亭主があるとあけすけに言ってしまへば身も蓋(ふた)も、ないて頼んだ無心迄、ばれになるのは知れたこと。」(河竹黙阿弥「木間星箱根鹿笛(このまのほしはこねのしかぶえ)」)
ばろうのくし
〔散斑の櫛〕鼈甲(べっこう)などに浮いている斑(まだら)が面白く飛んでいる櫛。
ばん
〔番〕勤務(主に千代田城への)。御番。勤番。家督をついで出仕(しゅっし)の資格を得るのを「番人り」、自分の勤務時間が終るのを「番明け」「明(あけ)番」「番引(び)き」「番退(び)け」「番帰り」、勤務多忙を「番が込む」、つとめの疲れを「番疲れ」。
ばん
〔番○○〕ふだんの○○。そまつな○○。「番傘」「番下駄」「番差(常用の帯刀)」「番茶」「番手桶」「番夜具」

はんえんさつ
〔半円札〕50銭紙幣のこと。
はんがいせき
〔半会席〕手軽にゆける中流料理店。上等な料亭を会席茶屋といった。
ばんがた
〔晩方〕夕方よりややおそく。
はんがっぱ
〔半合羽〕享保年間から流行の丈(たけ)の短い合羽。
バンカラ
〔蛮カラ〕ハイカラの反対。野蛮な人や姿をいう。太神楽(だいかぐら、曲芸)の小林辰三郎と新坊は、バンカラ一座となのり、評判をとった。
はんぎょくや
〔半玉屋〕雛妓(おしゃく、幼い芸者)を専門に関係する男をいう。
はんぎり
〔半桶〕飴屋などが商品を入れて肩からかけて歩く桶。普通の桶の半分ぐらいであるところからいう。
はんきれ
〔半切〕書簡用の丈短く横にながい和紙。
ばんけい
〔晩景〕晩方。夜。
はんげんぷく
〔半元服〕女が嫁にいくと眉を落し、歯を鉄漿(かね)で染め、元服といった。それを眉だけ落している場合をいう。また丸髷(まるまげ)だけゆった場合もいう。
「西洋風の半元服に、根の下(さが)った丸髷、」(河竹黙阿弥「千種花月氷(ちぐさのはなつきのこおり)」)
ばんごと
〔番毎〕始終。「あいつは番毎しくじっている」などという風につかう。
はんしょうはんしょう
半死半生(はんしはんしょう)のなまり。
ばんしん
〔番新〕番頭新造の略。吉原第一流の遊女について、一切の取りさばき、参謀の役をつとめ、自分も色を売ったもの。→「しんぞう」
はんすけ
〔半助〕50銭のこと。また大阪では鰻の頭を焼いたのを半助という。
はんぞう
耳盥(みみだらい)のこと。左右の角のような柄(え)がでた「たらい」で、口や手を洗うためのもの。漆で塗ったのが多い。つのだらい。
はんだい
〔盤台〕食物を盛った盤をのせた台。盤とは4つの足がある机で朱塗、横に長く、上面はへりが高く中が低い。いまの食膳の類。台盤(だいばん)。
はんだい
〔判代〕保証人(売女の)として判をおしてやるその料金。→「はんにん」
ばんたろう
〔番太郎〕自身番に附属している小使。いかに低い身分であるかは、「八幡太郎と番太郎ほどちがう」ということばが、昔あったことでもわかろう。番太。どうかすると今でも交番の巡査を「番太野郎」とののしっているよっぱらいがある。
はんチク
半ぱのこと。「あいつは半チクだ」
ばんづけ
〔番附〕芝居のプログラムの一種。新聞紙の半分くらいを横にした大きさで上半分は舞台面をえがき下に役割(キャスト)をのせる。相撲の一覧表もいう。
ばんっさん
「番頭さん」のなまり。ばんっさん、おッ師匠(しよ)さん、乳母(ばあやあ)、みな江戸人独特の呼び方、佐藤さんをサッさん、岩佐さんをイワッさんなどもみなこれに等しい。
はんてんき
〔絆纏着〕職人のこと。「あっし共は絆纏着でござんすから」。近頃でははんてんぎというが、江戸前では「き」が正しい。
ばんとう
〔番頭〕商店の支配人。殊に経済都市たる大阪では、番頭の地位は主人よりも上にあった。
円朝物その他の番頭がしばしば大阪弁なのは、江戸時代には経済顧問として、特に上方の商家からその道のベテランをよび迎えたからで、講談の故人神田伯竜は、大阪風の手堅い商業振りを学ぼうとして、ことさらに番頭には大阪弁を使わせた店があったといっていたし、二代目小さん(禽語楼(きんごろう))の「口入屋(くちいれや)」も番頭は大阪弁である。同じ落語でも「おせつ徳三郎」「火事息子」などのは、江戸人。
また故中村吉右衛門におけるいまの中村吉之丞、五代目菊五郎における先々代尾上松助のごときは、「番頭」「大番頭」とよばれたのは身近に仕えていることにもよるが、始終その一座にいてワキ役ですぐれた腕のある役者は、座長の番頭役という意味でこうよばれたのである。
はんどざ
〔半土左〕水死しかけた人。半分土左衛門だという意味。
はんどや
〔半病床〕旅芸人が困って宿に引き籠っているのを「とや」というが、金はあっても病人その他のことで出発できないのをこういう。トヤは鳥屋で、鳥が小屋に入っているのに見立てていう。→「とや」
はんにん
〔判人〕印判をおして遊女の身売りに証人となる人。ぜげん。→「ぜげん」。「仮名手本忠臣蔵」六段目(ただし今日の歌舞伎の演出に出てくる)源六のように、文字や法律に暗い庶民に寄生して生血を吸う悪質な人間も多かったようだ。
はんはたご
〔半旅籠〕片手間にやっている旅宿。
はんはつせいてん
〔半髪青額〕半髪は、額(ひたい)と項(うなじ)の髪をそり、廻りの髪を頂きで結び、さらに曲げて髷(まげ)と刷毛(はけ)をつくったもので、一に野郎髪(やろうがみ)。青額は、わかわかしく青く剃り上げた額。
はんぼう
〔半棒〕町家で護身用に置いてある六角又は八角の赤樫(あかがし)の棒。
はんま
〔半間〕間の抜けた。半ちく。邦楽の間(ま)が半分ずつおくれることからいう。
はんみょう
〔斑猫〕鞘翅目斑猫科に属する小さい甲虫(かぶとむし)。首は金糸いろ、胸の前部は赤糸いろ、つばさは紫黒色で美しく、はげしい毒をふくむ。→「ちんどく」
ばんや
〔番屋〕番太郎が自身番のそばにいる家。今の「ポリス・ボックス」というところである。→「ばんたろう」